03

Jun

高級クラブママが語る 「出世する人」の特徴 高級クラブママは見た!お金の使い方、払い方でわかる「人間の器」

■出世する男の会話や振る舞いは何が違うのか

〈概して、同僚との付き合いは、充分に知り合う迄は深入りしない方が良い。何もかも開けっ広げていると、困ることができてくる〉

大阪・北新地の社交料飲協会が35年ぶりに復刊し、加盟店に配った「ホステス心得帖─おもてなしの条件─」には、こんな処世訓が100以上収められている。

北新地は、東の銀座と並び西を代表する歓楽街。銀座同様、高級クラブが軒を連ね、政財界や芸能人、プロのスポーツ選手が親交を深めたり、情報を交換したりする大阪の夜の“サロン”の場だ。この夜の社交場の作法は、会社員の立ち居振る舞いに通じることも多いとあって、加盟店以外の一般企業などから「ホステス心得帖」についての問い合わせが殺到している。

中小企業の経営者や大手企業の幹部から、「基本的なことが、これだけ凝縮されたものは見たことがない」「社員研修にぜひ使いたい」「営業の基本姿勢に通じる。うちの営業マンに読ませたい」などの声が協会に届いているという。中国地方の主婦からは「マナー講座のテキストにしたい」という問い合わせもあった。

「心得帖の内容は、いつの時代でも通じる基本。接客はお客様への感謝から始まることを学んでもらいたい」と、復刊の狙いを話す協会副理事長の山名和枝氏は、北新地広しといえども並ぶ者のない約50年の歴史を持つ「クラブ山名」の名物ママだ。

北新地には、「ホステスたちに言動を見つめられることによって、男は磨かれ、育っていく」という要素もあるといわれる。この道56年、これまで政財界など各界の著名人を接客し、彼らの会話や振る舞いを見つめてきた山名ママに、「できる男」の条件とはどんなものなのか語ってもらった。

私も半世紀以上北新地で接客していますので、20代のころから来店してくださっているお客様が出世されるなど、男性の成功する姿を多く見てきました。偉くなられる方は、はじめから輝くものを持っていらっしゃいます。出世されるタイプの人は、爽やかで嫌みなところがありません。きっと男の目から見ても、惚れ惚れするのではないでしょうか。

ものごとに動じず、「この人にならついていきたい」「この人のためならひと肌脱ごう」と部下や周りから慕われている人が多い気がします。もっといえば、人としての魅力にあふれていて、その魅力に人が吸い寄せられ、人に恵まれることで成功を収めていくのでしょう。

伸びる人は接待の仕方、部下や店のスタッフへの振る舞い方の点でも違います。つまらないことを言わないし、言動にも気遣いがあふれています。どんな人ともコミュニケーションをはかる能力に優れています。

好き嫌いを態度に出さず、どの女の子にも気持ちよく接してくださる。ご自身が接待をされるときにも、いろいろな子が自分の席でいいサービスをしてくれたほうが助かるのはわかっているからでしょう。ボーイなど店のスタッフに対しても分け隔てなくよくしてくださいます。

できる男の人は酒を飲んでも、決して酒に飲まれません。酒を飲んでいない普段の状態のときにどんなに紳士的でステキな人でも、お酒を飲んで豹変するような方は、人の上には立てないでしょう。お酒を飲んで大騒ぎをしたり、他のお客様の迷惑になることをしたりするのは、店にとって本当に困ったことです。クラブは社交の場ですから、「お酒の上のことだから」などという言い訳はありえないことですね。お酒の飲み方にも品性があらわれるものです。

お酒を飲んで人の悪口を言ったり、愚痴をこぼしたりするのも避けるべきです。お酒の席では、日ごろの愚痴が口をついて出てきてしまうものですが、やはり表の顔を見せるのがクラブです。よそいきの顔をしながらどれだけ面白く遊べるかも、男の器量のひとつなのです。こういう店で素を出すべきではありません。それができない人は、野暮だと言われてしまいます。当店にいらっしゃる方には、愚痴や悪口を言われるような方はまずいらっしゃいませんね。

ただ、クラブでは冗談めいた多少の愚痴や、その場をなごませるエピソードならば、ストレス解消のご愛嬌ともいえるでしょう。遊び慣れている方は、ラウンジやスナックへ行かれたときに、裏の、自然体の自分サイズで遊ばれる方が多いのではないでしょうか。

■できる男はこのタイミングでお金を使う

できる男の人のお酒の飲み方として共通しているのは、潔さです。高級クラブだけに値段がそこそこ高いのは事実です。元を取ろうと長い時間粘りたくなる気持ちもわかりますが、できる男の人は長居をされません。「値段」ではなく「時間」を大切にされるからです。

特にお店が混んでいるときには、次の人に席を空けてあげる粋な飲み方というのは、店にとっては一番嬉しいことです。「いらっしゃいませ」と私たちが声を出すと、お店に入ってきた人を見て、「ほな、帰ろか」と言ってくださる。狭い店では、お客様のそういう心遣いがとてもありがたいものなんです。

気遣いで、もうひとつ嬉しいのは、お客様が少ない日に来店されて、いつもよりホステスが多くついた場合です。沈んでいる店内の空気を察知して、普段のボトルではなく、「ここはちょっと気合入れて、シャンパンいこか」と気張って飲んでくれるとありがたいものです。店の状況を判断して気を使ってくださる人は、本当に粋なお客様ですよね。

高級クラブママが語る 「出世する人」の特徴 高級クラブママは見た!お金の使い方、払い方でわかる「人間の器」

■ここに注意!おしゃれな人の落とし穴

クラブに来られる方は、おしゃれで清潔な人が多いですよ。スーツやコートはいつもピシッとしたものを着て、手入れの行き届いた靴を履いてらっしゃいます。

人間は「見てもらいたい。わかってもらいたい」という気持ちを多くの人が持っています。「ホステス心得帖」にも〈お客様は、自分の何か(持ち物・人柄・仕事・容貌…その他あらゆるもの)について、それをいち早く認められ、ホステスに誉められたいものである。……〉とありますが、男の人のその思いをわかるように努力をしています。『世界の一流品大図鑑』を読んだり、ブランドものをよく見て歩いています。ホステスさんたちにも、「『いい靴履いていらっしゃる』とか、『ああ、どこどこの○○ですね』というのがわかるぐらいの勉強をしましょうね」と話しています。しかし、そればかりを話題にしていると、お客さんも窮屈に感じるでしょうから、兼ね合いには気を配っています。

ところで、おしゃれな人でちょっと気になるのが、過剰にオーデコロンをつけている方ですね。加齢臭というのでしょうか、その臭いを気にされ、店に入る前に付けられるのでしょう。身だしなみに気をつけてくださっているのは伝わるのですが、少ない量で充分だと思いますよ。

なんといってもお客様に対する評価が出るのは、どうしてもお勘定の払い方になります。今では、クレジットカードの支払いが主流になりましたが、かつてはキャッシュかツケ払いでした。お勘定はツケ払いよりもキャッシュのほうが喜ばれると言われますが、しっかりしたお店では、必ずしもそうではありません。

キャッシュ払いだと、その人の足跡が残りませんから、店からすると、どのような方なのか理解しにくくなるのです。

ツケにしてあれば、支払いを記したノートを繰れば、「この人は若いのに実に几帳面に勘定を払ってくださる」などすぐにわかります。そうなれば、店に他のお仲間とお見えになっても、「いらっしゃい」と迎える女の子の声にも力が入るものです。つまり、ツケのほうが店に対して信用がつくということなんです。いずれにしろ、仕事のできる男性はおカネにきれいで、ホステスにもて、品格、気遣い、優しさが半端ではなく、人を引きつける魅力にあふれていらっしゃいます。

■▼これはもはや営業マンの心得帖だ!「ホステスの心得帖」

お客様の名前は、一度で覚えること。一度覚えたら、3年間は忘れぬこと。覚える工夫としては、

a)繰り返し名前を言いながら話すこと。b)さりげなく名刺を頂くこと。c)覚えるまで名刺をしまわないこと。d)役職名を間違えぬこと。

好みのお酒や嫌いなおつまみは忘れぬこと。2度目のご来店の時、注文のお酒の種類を訊くようでは、落第。

お客様の服装・持ち物について、正確な値踏みができること。そして、それを少々オーバーに評価してみせること。但し、知ったかぶりをしてはいけない。

お客様とお客様の関係を間違えぬこと。間違えたら、詫びても済まぬ場合が多い。信頼を築くのには時間がかかるが、怒らせるのは一瞬である。

週に1〜2回は禁酒、もしくは節酒日を決めて、体を大切にしよう。休日はできれば禁酒。体を毀しても、誰も助けてはくれない。20代の不摂生は40代になって、てき面に現れる。

酔わなければ接待できないようでは、一人前ではない。世の中には、一滴も飲めないで抜群の売上げを達成しているホステスは、幾らでもいる。むしろ、そういう人の方が、お酒で誤魔化せないだけに真剣である。

座の白けは、ホステスの責任。ホステスは人形やアクセサリーではない。ホステスは、お客様が遊んでくださるからといって、甘えてはいけない。遊んでくださるなら、お客様にサービス料を払わねばならぬ。ホステスの遊ばせ方がヘタなので、逆に遊んでくださるサービス精神の旺盛なお客様も出てくるのだ。遊んでもらうのは、ホステスの恥だと思うこと。

もっともダメなホステスは、お客様の話の腰を折って、尋ねられもしないのに自分の事ばかり、トウトウと喋りまくるホステスである。雄弁なホステスより、寡黙にして、真剣に話を聞いてくれるホステスをお客様は好む。お客様の話は、顔を正面に向けて聞くのが良い。

お客様が「また来ようか」と思われるのは最後の5分間が勝負。席でどんなにふざけても、お見送りの時はケジメをつけて、キチンと丁寧に挨拶すること。お客様が振り返った時、「また来よう」と思わせる殺し文句が言えて一人前。

自分のセールスポイントは何か、よく心得ておくこと。何もなければ月給泥棒である。

概して、同僚との付き合いは、充分に知り合う迄は深入りしない方が良い。何もかも開けっ広げていると、困ることができてくる。孤独に耐える強さがないと、必ず何かで失敗する。誰も頼りにしないというぐらい強いことはない。

言いたくないことは言わなくてよい。しかし、ウソはダメ。

男の最低の姿を見て、すべてを判断するな。男は、その人が思っているほど立派ではないが、ホステスが考えているよりは高級である。

ウェイターなど、裏方の人たちに威張らないこと。人間は、自分より立場の弱い人に対する態度で、その人の値打ちが決まる。ホステスは、お金を貰っているプロであることを忘れないこと。プロとは、甘えを許されない人種である。

(吉田茂人=構成 熊谷武二=撮影)