築36年の実家をフルリノベ。デザイナーならではの視点で考えた、仕事と家事を両立させる住まい(杉並区)|みんなの部屋
渋谷と吉祥寺を結ぶ、京王井の頭線のとある駅。駅前には商店街やスーパー、飲食店が充実しています。
公園や川など緑も多く、「住み心地がいい」と根強い人気があるエリアに、今回紹介するNさん、Mさんご夫妻のお住まいがあります。
名前(職業):Nさん(夫・会社員)、Mさん(妻・グラフィックデザイナー)場所:東京都杉並区面積:102㎡/4LDK+WIC+庭住宅の形態:2階建て戸建リノベーション費用:約1,500万円築年数:36年1F間取り図(編集部作成)
閑静な住宅街にある築36年の2階建ての一軒家は、もともとNさんのご両親が購入された物件。Nさんにとっては生まれ育った家になります。
結婚を機に継承した生家を、1棟フルリノベーションしたNさんとMさん。ファミリータイプの一軒家といった印象の外観から一歩中に入ると、そこにはインダストリアルなカフェのようなリビングとワークスペースが。
「リノベーションしないまま住んでいたら、きっと何もかもうまくいかなかった気がします」と話すおふたりの住まいは、それぞれが自分らしく過ごすためのこだわりと、力を抜くポイントがバランスよく混ざり合う空間でした。
お気に入りの場所
おふたり共通のお気に入りの場所は、1階のリビング・ダイニングとキッチン。
特徴的なデザインのカウンターがある広々としたキッチンと、座り心地のよさそうなソファが置かれたリビングは、ついつい長居してしまうカフェのような空間です。
「リノベーション前、ここはキッチンと畳の部屋とに鉄骨の壁で分かれていました。面積的にはそんなに狭くないのに、部屋が半分に分かれているせいで狭かったので、広いリビングにしたくて壁を壊したんです。
カウンターで食事をしたり、お酒を飲んだり、仕事をしたり。眠くなったらリビングの床でついつい朝まで寝てしまって、気付いたらずっとここにいることもあります。窓が二重サッシで、床暖房も入れているので冬はあったかくて気持ちいいんです。床暖房は人をダメにする装置だということに気づきました(笑)」(Nさん)
オールステンレスのキッチンに暖かみを添える木のカウンターは、デザイナーのMさんが自らデザイン。
カウンターの下にはAmazonで買った荷物が引っ掛けられるフックもついていて、使い勝手がよさそうです。
よくある直線にカットしたカウンターではなく、緩やかな波を描いた形状が目を引きます。そうデザインしたのには理由がありました。
「ダイニングテーブルを置かないことにしたので、カウンターをデザインしました。
最初、リノベーション会社から真っ直ぐにカットされたカウンターを提案されたんですが、リビングが狭くなってしまうので波状のカウンターにしたんです。これだと広くて使いやすいですし、鍋もできていいんですよ〜!」(Mさん)
「スツールはIKEAとコンランショップ、照明はHERMOSA(※メルカリで購入)、恵比寿のパーツセンターP.F.S PARTS CENTERで買いました。インダストリアルっぽいものが多いので、そこで買うことが多いです」(Mさん)
食器やお酒が並べられたキッチンの見せる収納棚も、すべてオリジナル。作業台での作業がしやすく、かつ圧迫感を与えないように長さを調整したそうです。
1階には、Mさん専用のワークスペースもあります。もともと押入れだったところをリノベーションしたスペースには、大きなモニターやアロマグッズなどが整然と置かれていて、仕事が捗りそう!
でも、なぜキッチンの近くにワークスペースをつくったのでしょう?
「新型コロナ以前から会社がリモートワークを進める方針を出していたので、家にワークスペースをつくろうとしていました。キッチンへの動線を考えつつ、仕事モードに切り替えられるように階段のある小上がりスペースになっています。
週の半分以上はリモートワークですが、仕事が忙しいので家事と両立できるように、あえて1階にワークスペースをつくりました。
完全に籠る空間にしてしまうと家事ができなくなりそうですけど、キッチンの近くにワークスペースがあるとお湯を沸かしながら仕事するとか、効率化できるかなと思ったんです」(Mさん)
椅子はイトーキのvertebra。
「がっつりとしたオフィスチェアを置くのはいやだったので、主張しすぎないデザインを探して買いました。イトーキさんのワークチェアなので、長時間座っても体が疲れにくくなりました」(Mさん)
機能とデザインの両立は、リモートワークをする椅子の必須条件ですね!
階段の下は収納で、さらに視線を移すと、何やら隙間が。
「階段下はルンバを入れるようにスペースを開けたんですが、ダイソンを買っちゃいました(笑)」(Mさん)
バスルームと洗面台の脇にあるパウダースペースもMさんのお気に入りの場所。白い有孔ボードを活かして、化粧品類がすっきりと並べられています。
「彼のヘアワックスや私の香水など、化粧品類を全部ここに置いてふたりで使っています。お風呂や洗面台を使った後、すぐにここでメイクできる動線のよさがお気に入りです」(Mさん)
Nさんのお気に入りは、2階につくった社長室のような書斎。4畳ほどの広さのこの場所は、以前、ご両親が寝室として使っていたそうです。
「自分の部屋が欲しいと思っていたのでシンプルな書斎をつくりました。本が好きで本棚もつくったんです。
リビングにも本やCDを置いているんですが、1階に詰め込みすぎるのはいやだったのでここに本を収納しています」(Nさん)
リノベーションのポイント
もともとここは、Nさんが中学生の頃からご両親と妹さんの4人で住んでいた家。近所にある祖父母の家にご両親が引っ越すのと、NさんとMさんのご結婚のタイミングが重なり、この家をNさんが継承。
それに伴ってフルリノベーションすることにしたそうですが、どのような部屋にするかプランはあったのでしょうか?
「会社の先輩に『リノベる。』さんを紹介してもらって、2019年10月くらいから打ち合わせを始めました。
僕たちは同じ会社で働いているのですが、新型コロナとは関係なく、新しい働き方を進めようと会社がリモートワークを推進し始めていたタイミングでした。
当時、彼女は会社の近くでひとり暮らしをしていたんですが、ここで暮らすと会社から遠くなるので家で仕事ができる環境をつくろうと。その最中に新型コロナになったので結果的にタイミングがよかったですね」(Nさん)
新型コロナ以前から進めていたワークスペースの計画は、2020年5月にリノベーション工事がスタート。約2.5ヶ月後に終了し、8月頃からこの家に住み始めたそう。
Mさんは今でも会社と家とほぼ半々で仕事をしているそうです。
インダストリアルな雰囲気の室内は、色や素材が統一されていてスタイリッシュ。
お話を伺っていると、デザイナーならではの工夫やアイデアを妥協せずに現実化していらしたことが分かりました。
「色はグレーやシルバー、素材は木を使いたかったので、事前に『こうしたい』というイメージをパソコンのモニター上で合成しながら確認しました。
壁や天井の色には特にこだわったんですが、リノベーションは解体してみないとどうなるかわからないところがあって、天井も梁がどう出てくるかわからなかったんです。
天井はコンクリ打ちっぱなしみたいになるかと思っていたら、木造と鉄筋のハイブリッドであんまりかっこよくない木が出てきたので躯体現しはやめて、じゃあ壁も天井と同じ色にしようとか、後から決めていく過程をおもしろがりながらリノベーションしました」(Mさん)
リノベーションを経験された方からよく聞くのは、「やりたいことが増えて予算との兼ね合いが大変だった」というお話。
2階建ての一軒家をフルリノベーションしたNさんとMさんはどうでしたか?
「リノベーション費用は1,500万円までと決めていたので、例えば1階の窓は二重サッシに、2階は普通の窓に節約するなどして、やりたいことを1階にギュッと集中させました」(Nさん)
「1階の壁はモルタルにしたかったんですが全部そうすると高くなってしまうので、キッチンの壁はスタバでも使われているモルタル風のグレーの壁材を使っています。そのおかげで安く収まりました」(Mさん)
ここは絶対こうしたい!というところと、ここは違う案も採用しようなどと工夫しながら着地点を決めていくことが大切なんですね!
残念なこと、気になるところ
「後から色々できると思って有孔ボードにしたんですけど、しならないように結構な厚さの有孔ボードを入れたんです。壁一面に入れる場合、厚みがないと施工上駄目みたいで。
そうしたらこの厚みに合うパーツがなかなかなくて、結局カスタムできていないんです! パーツ難民になっちゃったので、厚みに対応するパーツがあるかどうかまで計算しないと失敗する可能性があります」(Mさん)
「玄関の有孔ボードも失敗しているんですよ〜!
本当は鍵を磁力で直接貼り付けたかったんですけど、アルミの有孔ボードにしたら磁力が弱くて鍵など重いものは落ちてきちゃうんです」(Nさん)
もともと磁石が付かない素材だったため、後ろに鉄板を入れてもらったものの、やはり重たいものをくっつけるのは難しかったようです。
「もっと玄関を広くしたかったんですけど、コンクリートでしっかりつくられていたので今以上に広げることができませんでした。
その代案として、土足で上がれるところを廊下と同じ高さにつくりました」(Nさん)
お気に入りのアイテム
毎朝コーヒーを飲んでいるというおふたり。バリスタの資格を持っているMさんの影響で、Nさんもコーヒーを煎れるのが好きになったのだそう。
キッチンには愛用しているカリタのコーヒーミルやbonavitaの電気ケトルなどが並んでいました。
「電気ケトルは60〜100度まで、1度単位で自由に温度設定ができるんです。
ブルーボトルなどのサードウェーブ系のコーヒーショップはお湯を沸騰させないって聞いたので、いつも95度に設定して、コーヒー豆の量やお湯の温度などを測りながら煎れるようにしています」(Nさん)
コーヒー愛溢れるNさんに、おすすめのコーヒーの煎れ方を教えてもらいました。
「コーヒー豆8グラムに対してお湯は100グラムの割合がおいしいので、僕はコーヒー豆24グラムに対して300グラムのお湯を入れるというのを毎日続けています。
同じ量でも毎日味が違って、『今日はうまくいった!』、『失敗した』ってやってるのが好きなんですよね。
コーヒー豆は産地だったり、深煎り、浅煎りだったり。挽く粗さもいろいろ変えて試してます。西永福においしいコーヒー豆のお店があるのでそこで買ったり、職場の近くで買ったりしています」(Nさん)
取材中にコーヒーを入れてくれたNさん。お部屋中にいい香りが漂っていました。
おふたりの結婚祝いに会社の友人がプレゼントしてくれたというカップ&ソーサーも素敵でした。
キッチンのスペースにぴったり収まったDULTONのゴミ箱は、Nさんのお気に入り。インダストリアルなお部屋の雰囲気にあっています。
「デザインやトーンを若干アメリカンっぽく揃えました。45リットルのゴミ袋だと若干小さくて、70リットルだとちょうどいいんですが、70リットルのゴミ袋って高いんですよね〜。だから、ちょっとコスパが悪いのは難点ですね」(Nさん)
左が燃えるゴミ、右がペットボトルなどの分別ゴミを入れているそうです。
Mさんのお気に入りは、メガネとシルバーアクセサリーです。
玄関を入ってすぐのところにあるウォークインクローゼットの一角に、専用のコーナーをつくってディスプレイされています。
「特に気に入っているのは、ANNE ET VALENTIN(アンバレンタイン)です。顔に合うメガネを選んだ結果、丸いフレームが多くなりました。
出勤していたときは頻繁にメガネをかけていたんですが、今はマスクをしていると曇るのでコンタクト率があがりました。眼鏡屋さんに聞いた話だと、水泳選手が使っている曇り止めを使うといいらしいです」(Mさん)
「白のマグカップは古着屋さんで買いました。グリーンは日本でつくっている復刻バージョンだったと思います」(Mさん)
お酒が好きだというおふたりは家飲みをしているそうで、キッチンにはワイン、ジンなどのお酒がずらり。
中でも気に入っているのが、オランダ産のクラフトジン「VL 92 GIN」だそう。
「後輩にもらったんですが、ハーブを使っているクラフトジンで、すごくおいしいんです。
よく行くバーで山椒を漬けたジンを飲んでおいしかったので、それを真似してビーフィータービーフィーターに山椒を漬けたんですが、いまいちだったのでもう一回やろうと思ってます。
バーテンダーに聞いたら、57度のお湯で湯煎しながらハーブやスパイスを漬けるといいと言う人もいたり、湯煎はしちゃダメだって言う人もいたり、つくり方は色々あるみたいです」(Nさん)
Mさんが「これも気に入ってるんです!」と笑顔で出してくれたのが、このお皿。温かみのある質感が素敵ですね。
「新木場の、スタジオも兼ねているライフスタイルショップ・CASICAで買いました。
サラダを入れたり、取り分け皿として使ったり、和な感じだけど洋にも使えて気に入ってます。電子レンジやオーブンでも使えるんです」(Mさん)
2階の和室には、Nさんのおじいさんが使っていたアンティーク調の藤の椅子が。まるでこの家を守ってくれているかのような存在感です。
「おじいちゃんが使っていたもので、気に入ってこの部屋に置いています」(Nさん)
きれいなブルーのスケボーはNさんのお気に入り。オーストラリアのPennyのデッキで、ウィールなどのパーツも好きなもので揃えたそうです。
「街乗りもできるコンパクトさで性能もいいんです。メルカリで買ったウィールも底上げ用の板も、自分でカスタムしました。これで近所に買い物も行ってます」(Nさん)
「ネギを買ってきてって頼むと、喜んでスケボーで買い物に行ってくれるので助かってます(笑)」(Mさん)
暮らしのアイデア
ケーブル好きなNさんと、ケーブルが嫌いだというMさん。部屋がゴチャゴチャして見えるケーブル論争の解決に役立っているのが、専用の入れ物です。
「彼はケーブルをよく使うんですけど、そんなにいるかな?って思って。ごちゃごちゃしないように、ケーブル用の入れ物を買ってきて入れるようにお願いしてます」(Mさん)
「スマホを充電しているときもこの中に入れながら充電するように言われてます。ケーブルが嫌いな彼女は、いつも充電が切れてるんですよ(笑)」(Nさん)
ケーブル嫌いなMさんが使っているのは、見えても可愛いネイティブユニオンのケーブル。
「表参道のインテリアショップ・CIBONEで買いました」(Mさん)
ケーブル問題で重宝しているというのが、キッチンの脇にあるコンセント。ここはもともとエアコンの電源だったそう。それを残したのが結果的によかったそうです。
「リノベーション前の家はリビングとキッチンが壁で分かれていたので、エアコンを2台つけていたんです。
でも壁を取っ払って1部屋にしたのでエアコンは1台でいいねってことで、キッチン側にあったエアコンは無くしました。
その電源を取っておいたんですが、キッチンのカウンターでパソコンを使う時にそこで充電できるので重宝しています。延長コードは工業用のものを買いました」(Nさん)
これからの暮らし
「しばらくはここに住む予定ですが、今両親が住んでいる家があって、そこはおじいちゃん、おばあちゃんの代から住んでいる家なんです。最終的にはそこを継承するかもしれません」(Nさん)
「2階にある部屋のうち1部屋を今後、アトリエとして使う予定です。タイルっぽい塩ビの床にして、水道も付けたので、そこで絵を描こうと思っています。
今後子どもができたら、そこを子ども部屋にしてもいいかなぁ。
あとは、2階の使えていない部屋を今後カスタムしていって、使えるようにしたいですね」(Mさん)
おふたりのこだわりがギュッと詰まった1階のお部屋と、余白を残した2階のお部屋。
今後、気持ちや状況、家族構成などが変わったときに、2階のお部屋はどのように変わっていくのでしょう?
いま、この記事を読んでくださっている方の中にも、ご自身が生まれ育った家を継承するタイミングを迎えるという方もいらっしゃるかもしれません。
そうした方にとって、Nさん、Mさんのリノベーションがヒントや参考になりますように。
Photographed by Kenya Chiba
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フリーライター、各メディアでインタビュー記事などを書いています。また、和の香り文化を伝える「香司」、水引作家、日本メディカルハーブ協会認定・ハーバルセラピスト、アロマセラピーインストラクターとしても活動中です。休日はヨガ、サウナで整えつつ、お酒を飲みながら過ごしています。好きな食べ物はカレーとソフトクリーム。インスタグラムでお香や水引の情報を発信しています。