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テレビは高付加価値路線 ソニー、パナソニックの事情 - ITmedia NEWS

 電機メーカーなどで作る業界団体、電子情報技術産業協会(JEITA)によると、2021年の薄型テレビの国内出荷は、巣ごもり需要や給付金の影響で需要が増えた20年の反動で微減となった。一方、大型や高画質の機種では買い換え需要が高まっている。世界市場では価格競争に強い韓国や中国のメーカーの台頭に押され、事業の縮小を迫られてきた国内電機メーカーは、高付加価値の商品に力を入れている。

11年が転換点

 JEITAは1月25日、21年の薄型テレビの国内出荷台数は前年比0.7%減の538万台だったと発表した。JEITAの統計をみると、国内メーカーのテレビ事業の転換点となったのは11年だ。

 この年、地上デジタル放送への完全移行が行われた。前年は、買い換え需要が高まり、薄型テレビの出荷台数は現在の5倍近い2500万台に上ったが、11年以降は出荷台数が急激に減少した。世界市場ではすでに韓国のサムスン電子やLG電子のシェアが拡大しており、国内市場を重視してきた日本の電機メーカーは苦しい戦いを強いられることとなった。

 一方、21年の国内出荷台数を見ると、大型や高画質機種は堅調に推移している。50型以上は10.4%増の205万台、また、4K対応は0.3%増の306万台、有機ELは40.6%増の63万台だった。各社は高付加価値のテレビに勝負をかけている。

8Kで勝負のシャープ

 2000年代に液晶テレビ事業で大成功をおさめたものの、販売台数を追求することで巨額の赤字を出したシャープが、テレビ事業復権のために期待するのが4Kの4倍もの解像度を誇る8Kテレビだ。

 17年に8Kの家庭用液晶テレビを世界で初めて発売。さらに映像制作や医療、研究などの各分野にビジネス展開する戦略を打ち出している。開発に携わる技術者は「高精細な8Kだからこそ繊細な映像処理の技術が必要になる。早くから8Kに取り組んできたシャープには一日の長がある」と自負する。

テレビは高付加価値路線 ソニー、パナソニックの事情 - ITmedia NEWS

 ただ、8Kテレビは対応するコンテンツが少なく、国内市場での販売台数に占める割合も1%に満たない状態が続いており、普及にはまだ時間がかかる見通しだ。そこでシャープは21年12月、小型の発光ダイオード(LED)を高密度に敷き詰める「ミニLED」と呼ばれる技術を採用したテレビを国内企業として初めて発売。液晶の高いコントラストと有機ELのような締まった黒が表現できる次世代機でシェア拡大をもくろむ。

ドル箱に変えたソニー

 テレビ事業が04年度から10年連続で赤字となり、その間の損失は約8000億円に上ったソニーグループは、その後業績を好転させ、利益を伸ばしている。

 国内のテレビ市場に陰りが見え始めた11年にいち早く高付加価値路線にかじを切ると徐々に改善し、14年度に黒字へと転じた。4K、大型が主流になり、有機ELが登場したことで、ソニー製テレビの平均単価はこの10年近くで1万円以上高くなっている。

 担当者は「独自の映像処理エンジンを使い、最高の映像を描写することに力を注いできた。画質の良さを生かし、映画やゲームなどのコンテンツとも連携してユーザーに新たな体験を提供することができる」と強調する。

 21年4月には人の脳のように映像を認識するプロセッサを搭載した4Kテレビ「ブラビアXR」を発売。人が注視している部分をより詳細に認識しようとする特性を活用して、映像上の重要な部分を重点的に高画質化することで、臨場感が増すという。

 ソニーのテレビ事業は、21年3月期決算で本業のもうけを示す営業利益が1392億円となったエレクトロニクス事業をけん引する。販売台数を追わず、付加価値を重視した戦略が、不採算事業を“ドル箱”へと変えた。

縮小するパナソニック

 一方、かつて世界シェア10%以上を誇ったパナソニックは事業の縮小を進める。低価格帯の機種に関しては生産を海外メーカーに委託する方針だ。21年から宇都宮市の国内拠点に加え、ベトナムやインドなどでのテレビ生産から順次撤退しており、生産拠点をマレーシアと台湾の2カ所に絞る。

 同社のテレビ事業は新型コロナウイルスによる巣ごもり需要で、21年3月期決算では3期ぶりの黒字を達成したものの、低価格を強みとする中国メーカーなどの台頭で長年赤字が続いていた。

 価格競争の激化を受け、元年には液晶パネル生産からの撤退を発表。高価格帯でも状況は芳しくない。調査会社BCN(東京)によると、4K・8Kの高価格帯を中心とした液晶テレビの21年の国内シェアで、パナソニックは4位の14.4%。かつてはソニー、シャープとトップを争っていたものの、徐々にシェアが低下し、背後には中国ハイセンスが迫る。

 そこで他社とは異なる視点を持った性能に活路を見いだす。21年12月、テレビなどのデジタル家電事業を担う豊嶋明事業部長は「多機能化による付加価値ではなく、顧客が求めるシンプルな価値を持つ商品を追求する」との方針を示した。すでに同10月にチューナーから映像が無線で送信されるアンテナケーブル不要の「レイアウトフリーテレビ」を発売しており、新機軸を打ち出す。

 「昔と比べて海外メーカーと品質の差が小さくなったことでテレビは日本企業にとって厳しい事業になっている」とするのは、りそな総合研究所の荒木秀之主席研究員だ。その上で「ソニーは高画質などの付加価値で成功しているが、今後は他の家電との連携といった新たな価値を見いだす必要があるのではないか」と指摘している。(桑島浩任)

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