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世間が知らない「段ボール箱も商品のうち」がトラックドライバーに及ぼす深刻な影響

本題に入る前に、まずは読者各位に問いたい。

商品の入った段ボールは「梱包材」か、それとも「商品の一部」か。

上の画像ほどの傷は許せないか。

これが自分宛ではなく、中身がこれからスーパーの店頭に並ぶスナック菓子で、陳列後はすぐに廃棄される段ボールだったらどうだろうか。

中身は無傷なのに、段ボールに付いたわずかな擦(す)れでドライバーが弁償させられているとしたら、どうだろうか。

日本の輸送クオリティ

アメリカに住んでいた頃、8つの角すべてが尖った状態の荷物が家に届かないことがよくあった。そのボコボコぶりは、SNS上などでも驚きや困惑の心情とともによく紹介されている。

一方、日本では段ボールがアメリカで許されるほど潰れた状態で家に届けられることはほとんどない。

筆者にも宅配業者から、「段ボールに傷を付けてしまった。返品したほうがいいか」という詫びと確認の電話がかかってきたことがある。

「段ボール箱は梱包材か、それとも商品の一部か」

以前、SNSでもこの議題について簡易アンケートをおこなった。

段ボールはあくまでも「梱包材」であり、むしろ商品の代わりに角が潰れたり、穴が開いたりするものだと思っていた筆者にとって、約32%の人が「商品」と答えたのには、大きな衝撃を受けた(回答者119人)。

実際、大手通販サイトのレビューには、「商品の段ボールに直接ラベルが貼られていたこと」に憤り、わざわざ最低評価を付ける利用者もいる。

また、段ボールではないが、駅などで手土産などを購入すれば、その商品の数だけ「贈る用の紙袋」を入れてくれるといった"気遣い"が日本にはある。

こうした「段ボールなどの外装を含めて商品」と考える風潮は、贈る(送る)相手への敬意があるからこそゆえ、決して悪いことではない。

が、現代社会にみられる"過剰な気遣い"によって、我々の代わりに荷物を運ぶトラックドライバーたちが深刻な影響を受けていることを、世間は知らない。

わずかな擦れでも返品

以前、「世間が知らない“送料無料”の裏側『積荷5000個を手で積み降ろすトラックドライバーたち』」を紹介した。

その大まかな内容はタイトル通り、

走るだけが仕事だと思われがちなトラックドライバーだが、荷主の元では時に数千個もの積荷を手作業で1つひとつ積み降ろす(通称「バラ積み・バラ降ろし」)など、契約にない作業を無償でさせられている実態がある。

というものだ。

しかし、このバラ積みによる理不尽には、「続き」がある。

荷物の積み降ろしの際、中の商品がたとえ無傷でも、その商品が入っている段ボールにわずかな擦れや汚れ、角潰れがあるだけで返品・買取させられることがあるのだ。

冒頭で紹介したようなtoC輸送で、配達先がエンドユーザーである荷物だったり、「箱売り」するような商品であれば、どうにかまだ理解する余地はある。

が、開封し、商品を陳列したら即刻「ごみ」と化すBtoB輸送の段ボールにおいても、わずかな傷は「商品事故」と処理されることが少なくないのだ。

「飲料を運んでいます。商品が入れられている段ボールに少しの擦れがあるだけで返品させられます。もちろん中身は無傷です」(20代中型地場配送)

「バラ積みによる荷物同士の擦れで返品。夏場に汗が段ボールに付いたから返品。緩衝材の汚れが段ボールについても返品」(50代長距離フリー)

「ティッシュ、トイレットペーパーのバラ積みやってるとそんな事ばっかりですよ。そのまま売るなら分かりますけど、店員さんが開けて捨てるだけの段ボールにちょっと傷が付いただけで返品交換ですからね。怖くてやりたくないですね」(40代中長距離大型)

なかでも、多くのドライバーが「とりわけ厳しい」と声をそろえるのが医薬品・医療系の荷物だ。

「定期便で医薬品を運んでいますが、外装・ラベルの擦れは返品といわれてます」(50代大型定期便)

「医療品が入った箱はとにかくうるさかったですね。指でグッと押さえて凹んじゃダメ、製品同士で擦れてもダメ。雑貨と積み合わせだったので擦れて傷付くのを避けるため、助手席に積んで運んでいました」(40代長距離)

また、段ボールを持ちやすくするために切り込まれた両横の「取っ手」の穴にも、ドライバーは指を入れてはいけないとされることがよくある。

「あの取っ手には指を入れてはいけないと会社からきつく言われています。よく家電の外装についてますが、うちでは完全にアウトです」(30代地場配送)

「まだ蓋が閉じていて手が入らない状態が正規の製品の状態。荷物が持ちやすいようにある取っ手は、運搬するドライバーのためではなくお客さんのためにあるものですからね」(50代大型ウイング)

段ボールを段ボールに入れてくれ

こうして破損扱いになった段ボールは、発荷主に返されたり、スペアの段ボールを持たされ、わざわざ詰め替えさせられたりする。

国内の段ボールのリサイクル率は高いとはいえ、荷主には環境問題やSDGsに積極的に取り組んでいるとする企業も少なくないことを考えると、「ちょっとの傷」で余計なごみや労力を発生させる現場に、ドライバーたちが違和感を覚えるのも不思議ではない。

世間が知らない「段ボール箱も商品のうち」がトラックドライバーに及ぼす深刻な影響

「(食材を入れる前の)弁当の容器を段ボールに入れて運ぶ際、擦れを防止するのに荷台の壁をさらに段ボールで養生するという……。その一度の輸送で捨てられる養生材の量たるや、プラ製レジ袋の比ではない」(30代元大型長距離)

「中身は無傷なのに、ダンボールだけ発注して詰め替え。無駄なことばかりしています。どこがエコなのか。ダンボールも納品や積み込みで近くに行った時に自分で取りに行き、謝ってダンボールを受け取って詰め替え、再度お店に運びます」(40代中長距離大型)

中にはこれほど厳しい運搬や条件を強いられているにもかかわらず、実際現場や店頭では潰れていることもある、と嘆くドライバーも。

「たった数滴の雨濡れで返品されるのに、お店の倉庫では雨漏れや浸水で濡れようが潰れようがお構いなし」(40代大型中距離)

「コンビニのパックジュースは、自重で潰れていると受けてくれないのに、店舗には潰れて並んである。あんなに必死にいろんなこと気にして運んでるのに店舗で潰れてるなら多少は目をつぶれと言いたい」(30代長距離)

また、「段ボール=商品」の発想で、どのみち緩衝材として大量の段ボールを使ったり返品して新しい段ボールを使用したりするのならば、もはや最初から段ボール箱に段ボール箱を入れてほしい、という声は非常に多い。

「外装の段ボールも商品だというのならその外にもう一枚段ボールで梱包して欲しい。裸で運んでる事になるのだから」(30代長距離)

「昔は穴が開いていようが凹んでいようが中身が無事なら受けてくれたけど、今はダンボールも商品っていう荷主さん増えました。ダンボールも商品ならば更に梱包材巻いてほしいものです」(40代長距離トレーラー)

商品無傷もドライバーが弁償

最も理不尽なのは、商品そのものが無傷なのにもかかわらず、この段ボールの擦れや角潰れ程度で、ドライバー自身が商品を弁償させられるケースがあることだ。

「弁償は個人負担のところが少なくないですよ。ウチはとりあえず会社が払って分割の給料引きです」(50代長距離冷凍車)

「ティッシュやカップ麺、飲料など運んでた時、角潰れは商品買取でした。『段ボールも商品』と言われ、若かったので『段ボールも商品ならもう1つ段ボールに入れてくれ』って言って一悶着ありました」(50代中距離大型)

「某コンビニの配送センターでは、即席麺が入っている段ボールの蓋部分の糊付けが片方浮いているだけで破損、荷受け拒否です。社内で事故扱い、無事故手当カットに加え賞与の査定ダウン。数万円の減給です」(50代地場大型)

「医薬品の積み込み時、箱は無傷なのに中身が割れてるかもしれないと18万円の弁済。錠剤があのくらいで割れるようなら普通に走るだけでみんな割れてますよ」(50代大型長距離)

また、不可解なのが1箱ダメージがあった場合、一緒にパレット(下画像参照)に積まれている他の箱もすべて返品・弁償扱いになる事例があることだ。

「某医薬品会社では汚れや破損が1箱でもあると、その1箱だけでなく同じパレットに載っている全てのケースが受け取り拒否になり、発荷主に戻さなければなりません。酷い場合は、(荷崩れ防止のために巻かれた)ラップが擦れて切れてるだけでアウト。超超厳しいです」(40代大型長距離配車兼運行管理者)

弁償品を受け取れないケースも

しかし、この弁償に関して筆者が何より理不尽に思うのは、たとえドライバーがこれらの荷物を弁償したとしても、その商品を受け取れない場合があることである。

「自分が運んでいる飲料関係は、弁済になった際、中の飲料は荷主のお茶になりドライバーの手元には来ないです」(50代長距離フリー)

「ある飲料メーカーは破損で弁済しても品物は荷主の飲み物になります。弁済は会社の荷物保険。個人的には免責の分を月1万円づつ3回払いしました」(50代大型長距離)

「弁償だけさせて品物は渡さないとか意味分からん。中身大丈夫でも箱に傷つけただけで買取。輸入品の唐揚げの箱が破れてたのに気づかず、2万円の弁償で商品はメーカー預かりでした」(50代長距離冷凍車)

「飲料は1ケースの不良でもパレットごとの買取で、さらに商品もらえないことはザラに聞きます」(40代大型長距離一般貨物)

弁償しても商品を渡さない理由は何なのか。

あるメーカー社員の話によると、

「表向きは、正規外のルートで流通した商品によって事故が起きたらメーカーとして対応ができなくなるから。でも、その買い取らせた商品を安く売られては困るからという本音も裏にはある」(40代某菓子メーカー社員)

という。また、ある運送関係者も、

「昔、買取したものを運送会社側が安く売りさばいて、支払額を少しでも抑えようとしていましたが、それはメーカー的にアウトらしく。小売で売れば500円なのに運送会社が返品した商品を300円で売ったら自社には1円の利益もないですからね」(関西地方配車担当)

と話す。ならば些細な傷や汚れなどで弁償させないでほしいというのが運送側の本音だが、実情に対して別の某メーカー社員いわく、

「段ボール箱は中の商品を保護するもので、中が大丈夫であれば箱が破れようが汚れようが問題無いと個人的に思うのですが、納品先の物流センターや販売店、宅配で受け取る個人の消費者ともに、箱が破れていることを問題視して返品になります」(50代家庭用雑貨メーカー営業)

とのことだった。やはり「段ボール=商品」の背景には、日本の「行き過ぎた顧客への気遣い」があるといっていいだろう。

1つひとつドライバーの手によって載せられる「バラ積み」は、こうした段ボールの破損を引き起こしやすい。

それでもバラ積みがなくならないのは、効率よく積めるパレットを使うと「隙間」ができ、空気を運ぶことになるから。そして、自社のパレットが行方不明になるのを避けたいからという、こちらも「荷主側の都合」によるものだ。

現在、「低賃金」「長時間労働」が問題になっているトラックドライバー。

こうした顧客至上主義、「段ボール=商品」という考えによって、結果的にドライバーのさらなる経済的負担を強いるだけなく、現場で積み込み作業の「順番待ち」が発生することで、「長時間労働」や「路上駐車問題」までをも引き起こす。

改めて読者各位に問いたい。

段ボールは「梱包材」か、それとも「商品の一部」なのか。

関連する過去記事:

世間が知らない“送料無料”の裏側「積荷5000個を手で積み降ろすトラックドライバーたち」

https://news.yahoo.co.jp/byline/hashimotoaiki/20210512-00237435

世間が知らない「トラックが路上駐車をする理由」

https://news.yahoo.co.jp/byline/hashimotoaiki/20210309-00226455

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