最終回「塗料はホームセンターの花形」 - ニュースONLINE
本紙が今年5月に催行した「米国・塗料ビジネス視察ツアー」レポートの最終回。視察行程の最終日はペイントの小売現場の視察がメインで、アメリカのホームセンター1位、2位の「THE HOME DEPOT(ホームデポ)」と「LOWE'S(ロウズ)」、そして世界最大のスーパーマーケットチェーン「Walmart(ウォルマート)」のラスベガス市内の店舗を訪問。いずれもスタッフのインタビューを交えた内容たっぷりの訪問で、塗料の小売の現場からアメリカのペイント文化が垣間見えた。「アメリカのホームセンターはペイントコーナーが花形」と以前から聞いていたが、正にその通りの光景が広がっていた。
ホームデポもロウズもペイントコーナーは店舗に入ってすぐのゴールデンゾーンに置かれている。正面に自動計量調色機を備えた広いカウンター、その左右にカラーカードコーナー、背後に5~6列の長い商品棚が並ぶ配置。木材や工具、ホームケア、電化製品など店舗内の各種コーナーの中でも最も広い売り場面積を占めている。
訪問したホームデポの店舗では「13部門の売り場で構成され、店の年間売上げは4,800万ドル、このうちペイント部門は500万ドル(約6億円)で各部門の中でもトップの売上」(スタッフ)と儲け頭だ。塗料コーナーがお荷物になっている日本とは雲泥の差。
客層はコントラクター(プロ、セミプロなどの業者)6に対して一般が4の割合(ホームデポ)。エマルション塗料の1ガロン缶が、一般消費者30ドルに対してプロ25ドルなど業者向けの価格設定がある。また、決済はほぼクレジットカードで、職人も会社から材料購買専用のカードを渡されているほどカード決済が浸透している。
業者の優遇は価格だけではない。ロウズの店舗では、一般客とは別に業者専用の売り場があり、現場に向かう職人のため早朝から開店するとともに、マフィンやジュースなど簡単な食事もサービスされているそうだ。ホームセンターをプロが日常的に利用している様子が伝わる。
ペイントコーナーでは常に5~6人のスタッフが常駐している感じ。ひっきりなしにやってくる客の対応で調色をしたり、色選びの相談に応えたり、商品の補充をしたりと忙しそうに立ち働いている。主任クラスの店員は売り場間の移動があるそうだが、それ以下の層ではペイントコーナー一筋というベテランも多い。
ロウズでインタビューに対応してくれたマリアナさんはまだ20代と思われる女性スタッフ。「発色やワンコートカバレッジなど私はValsparのペイントが一番好き。お客さんに自信を持って薦められるから。お客さんの塗るものによって適切な塗料を選んだり、色の相談に乗ったり、この仕事は面白いわ」と塗料を売る自信に溢れている。こんなスタッフが塗料コーナーにいれば日本のホームセンターもだいぶ様がわりすると思うのだが。
ホームセンターに限らず、この後訪問したウォルマートでも、また前号でレポートした塗料専門店でもスタッフがとても自信ありげに塗料を販売しているのが印象的。暮らしに根付き、消費財として広く普及しているものの、塗料にはある程度の専門知識も必要。このため販売スタッフがアドバイザー的な役割を担っており、それが堂々とした販売態度につながっている。塗料の売場に華があるようで羨ましい。
その他、ホームセンターなどで見かけたユニークなシーンについていくつかレポートする。
「ウップスペイント」って?
ホームデポは「BEHR」、ロウズは「Valspar」というように、それぞれメインで担いでいるペイントブランドがあり、来店者は店頭に設置された各ブランドのカラーカードコーナー(数百色)から欲しい色を選びカウンターに持ち込む。その色の配合にそって店員が自動計量調色機でミキシングした塗料を、その場で持ち帰るのが一般的な購買スタイルだ。
この際、「選んだ色が気に入らない」「色が微妙にずれている」など、料金を払わずに置いて帰る客もいるそうで、それらの商品を「ウップスペイント(Woops=失敗しちゃった)」と呼び再販するそうだ。
定価の2割ほどに大幅ディスカウントするので、どんな色でもいい人や下塗りに利用する人などにウップスペイントも人気。ただし、元の購買者がディスカウントを狙って買い戻さないように全く違う色にするそうで、ホームセンター側もしたたかだ。
あなたたちは誰?
ホームセンターの視察を終えて建物から出てくると、中南米系の人たちが駐車場のあちらこちらにたむろしているのが目に入る。実はこの人たち、ホームセンターから出てきた客に対して「ペンキ塗ろうか?」「大工仕事しようか?」などと声を掛け、仕事をもらおうとしている人たちだ。
アメリカでは最近、「DIFM」というスタイルが出てきている。DIFMはDo It For Meの略で、自分ではない誰かに施工をお願いすること。共働き世帯の増加でDIYの時間が取れなくなったことと世帯の収入が増えたことでお金を払って家のメンテナンスを依頼することが増えているらしい。
ホームセンターの出口で待ち構えている中南米系の人たち。午前中に仕事がゲットできなければその日は望みがないそうで、午後は木陰でおしゃべりや昼寝といったのんびりとした光景が広がっていた。
主婦が塗料をついで買い?
午後は世界最大のスーパーマーケットチェーン「ウォルマート」の店舗を視察。ここはスーパーセンターと呼ばれるタイプの店で「何でも揃う」がウリのワンストップ型店舗。スーパーマーケットでありながらペイントコーナーまであり、お肉や野菜と同じフロアでウォルマートのPB塗料が売られている。いわばイトーヨーカドーがペイントコーナーを設けて自社ブランド品を売っているようなもので、日本では到底考えられない業態だ。
ホームセンターと同じく、客が選んだカラーチップから店員がその場でミキシング(自動計量調色機)して販売するスタイル。スーパーマーケットだけあって客層は女性の方が多く、食品や日用品を買いに来た主婦が「そういえば、そろそろ部屋の壁を塗り替えなくちゃ」と、"ついで買い"の対象となるほど日常の暮らしにペイントが根付いている。ペイントB to Cビジネスの視察を目的とした今回のツアーにふさわしい、正にコンシューマ需要の象徴的なシーンが広がっていた。
乞うご期待
本紙の今回の「米国・塗料ビジネス視察ツアー」は、参加いただいたメンバーから「概ね満足した」との高い評価をいただきました。それらの声の拡散もあって業界内の他の方々から「次も開催して欲しい」と、早くもリクエストをいただいています。来年も同様の企画を考えていますので、「行ってみようかなぁ」という読者がおられましたら、弊社担当(泉)にお声掛け下さい。ペイントの本場・アメリカの視察ツアー、刺激になること間違いなしです。