みんな電力事業本部ソリューション営業部部長の真野秀太さんに聞く、“電気を選ぶ”ことの意味と影響[エコチャレンジャーインタビュー 第093回|EICネット]
挿せば電気が流れてくるコンセントの向こう側に思いを巡らせたことはありますか?
大塚理事長(以下、大塚)― 本日は、みんな電力株式会社ソリューション営業部・部長の真野秀太さんにお出ましいただきました。みんな電力は、「顔の見える電力™」をキャッチフレーズに事業を展開され、昨年は、環境省主催のグッドライフアワードで環境大臣賞 最優秀賞を受賞されておられます。今年は、新型コロナウイルス感染が大きな関心事になっていますが、地球温暖化を防止するための気候変動への対応は、まさに待ったなしの状況が続いています。一方で、SDGsの取り組みなど、より成熟した社会を目指そうとする関心も高まっていると思います。このような中、今日は真野さんから電力の利用を切り口に、私たち自身の生活あるいは環境との関係について考える機会にさせていただければと考えております。早速ですが、真野さんから「みんな電力株式会社」がどのような会社で、どのような事業をされているのかを、ご自身の紹介を兼ねてお話しいただきたいと思います。
真野さん― 弊社、みんな電力は電力の小売り事業者ですが、日本で唯一、「顔の見える電力™」というサービスを手掛けています。これはどういうことかというと、われわれ、必ず問いかけをするのですが、「皆さん、コンセントの向こう側が見えますか?」と。コンセントって、水道をひねれば水が出るのと同じように、挿せば電気が流れてきますが、必ずどこかの発電所につながっています。そのコンセントの向こうの発電所に思いを巡らせたことはありますか?という問いかけです。弊社は、日本全国、北は青森から南は鹿児島まで、現在は150くらいの発電所と契約をしています。いわゆるウィンドファームと言われる大規模な風車が20基以上あるような風力発電所から、農家さんが個人あるいは何人かで出資して設置し非営利で運営している市民型の太陽光発電など、すべて再生可能エネルギーの発電所です。そこから電気を調達して、それを需要家のお客様に販売しています。弊社のホームページをご覧いただくと、これらの発電所がすべて見られるようになっていまして、それぞれの方たちが、どんな思いでエネルギーを作っているのかを紹介しています。電気を使うとき、こういった方々が作っているこんな電気、こんなこだわっている電気だということを意識して使ってもらいたいという思いがあります。電気って、普段はどこからきているかなんて皆さんあまり考えませんよね。そうすると、結果的にどんな影響を与えているのかもわからないと思うのです。でもこういう形で、疑似的にではあるものの、電気を選んで買うという仕組みに参画することで、そういうことを考えることができます。
大塚― 真野さんのお話を聞くと、うん、ごもっともということですが、そういうことを思いつかれたというか、もっと具体的には事業として立ち上げようとされたわけですよね。その辺りのこともお聞きしたいと思います。
真野さん― それについては、本当は、創業者の大石本人の口からお話した方が面白いのですが、代わってお話しさせていただきます。もともと大石は、電力を専門とする人間ではなくて、印刷会社におりました。当時、たまたま地下鉄に乗っていたときに、目の前に座っておられた女性が、携帯電話に太陽光パネルの付いたキーホルダーをつけていました。ちょうど大石自身の携帯電話のバッテリーが充電切れになっていたことで、ふと「ああその電気を買いたい!」と、そんなことを思ったらしいのです。そこから、電気の専門家でもなんでもない大石が、電気というのは、実は誰にでも作れるというひらめきを得て、だったらその電気をみんなが作って、それをみんなでシェアする社会を作って、そこにお金が回る仕組みができれば、日本全体でみんなが少しずつ富を共有できる、そんな思いがきっかけでした。それが会社名の「みんな電力」にもつながっていると思います。
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みんな電力のホームページに掲載している、「顔の見える電力™ 発電所一覧」。
電気って、これまでは“選べる”ものではなかった
大塚― スタートは、いろいろな方のそれぞれの経験が寄せ集まって始まったのだろうと思いますが、タイミングからすると、日本国内で電力自由化やFIT(固定価格買取制度)などの制度の開始とも一致します。何か関係があったのでしょうか。
真野さん― スタートの時には、直接は関係なかったようです。たまたま創立した2011年が、福島の事故のタイミングですが、それを受けて立ち上げたわけではなく、もともと閃きがあって始めたのがその年だったということです。ただ、企業さんに電気を買っていただけるようになってきたのは、社会全体が電力自由化やFIT制度のおかげで、再生可能エネルギーが誰でも作れるようになったことと相まって、電気を選んで買う、選んで使うという環境が整ってきたこととうまく合致してきたと思います。私自身も、もともとはシンクタンクにいて、そのあと発電事業に従事し、あとから加わった人間です。再生可能エネルギーの発電事業に携わっていた当時、やはり使う人がもっと再エネを使いたいと思うことがすごく大事だと実感しました。それでは、使う人に一番近い事業は何かと考えたとき、電力の小売り事業だと思ったのです。電気を選んで買うという日本で唯一のサービスを始めていたみんな電力で、消費者に近いところで事業をやりたいと思い、私は3年前にジョインしました。
大塚― その頃は、みんな電力はすでにかなり大きくなっていたのでしょうか。
真野さん― その頃は、まだ個人のお客様が主体でした。法人のお客様もいらっしゃいましたが、どちらかというとカフェなど比較的規模の小さいところが、再生可能エネルギーや環境への高い意識から購入してくださっていました。2016年のパリ協定以降ですかね、気候変動が企業の経営課題になってきたのは。それに取り組まないと企業は生き残れないという風潮が生まれ、そのタイミングで、丸井さんとかTBSさん、戸田建設さん、最近ではリコーさんなど、日本を代表する錚々たる大手企業さんが、弊社のようなベンチャー電力会社で、まだまだ大手電力会社に比べると規模が小さいところを選んでくださるようになってきました。ここ2〜3年の環境意識の高まりです。
大塚― それは、みんな電力の側からの働き掛けもあったということでしょう。
真野さん― そうですね。ただ、「顔の見える電力™」「電気を選んで買う」というコンセプトは、最初の頃から全然変わっていないのですよ。電気って、これまでは“選べる”ものではなかったじゃないですか。よく、電源構成のベストミックスと言って、原子力も火力も石炭も、自然エネルギーも、全部いるというのです。そのベストなミックスは、電力会社が作るという発想でした。環境意識の高い小規模企業や個人の方で、できる限り再エネを選んで買いたいという思いがあっても、電力自由化前まではできなかったのです。
大塚― 今でも、まだ選べるとは思っていない方が多いのではないでしょうか。
真野さん― そうなんですよ。残念ながら、まだ電気を選べることを知らない方がすごくいらっしゃいます。まだまだ意識の啓発というか、どうやって伝えていくかが大きな課題です。
大塚― 今までは、両方のパワーをうまく組み合わせられなかったところもあったと思います。消費者の願望にも合致するという意味で、いいところに目を向けられたと思います。
真野さん― そうですね。代表の大石も、この事業を始めたときは1093人に1人くらいしか理解してもらえなかったと言っています。電気を選んで買うという話をしても、「どういう意味ですか? 電気なんて選べないよね」「電気なんて混ざっちゃうじゃない」と。それが最近だと、電力会社を選ぶことが当たり前になってきています。
色もない、形もない電気って、究極のコモディティ
大塚― みんな電力は、昨年のグッドライフアワードで環境大臣賞 最優秀賞を受賞されました。もう何度もおっしゃっていただいていることですが、「電気を選んで買う」というコンセプトが、私たちから見ても新しいライフスタイルを象徴する意味合いもあり、環境大臣賞に選ばれたと私たちは理解しています。みんな電力の側から見れば当たり前のことかもしれませんか、今の社会に対していろいろなことをお考えじゃないかと思います。真野さんたちがお仕事をされていて感じていること、あるいは消費者の方からお聞きしたことなどについてご紹介いただければと思います。
真野さん― そうですね。電気って、究極のコモディティなのです。色もないですし、形もありません。ですから、みんな電力の電気に替えたとしても、買った方にとって、別に次の日から何かが変わるというわけではありません。例えば、オーガニックの野菜を買えば、それは手に届きますし、やはりちょっと味が違うとか感じることがあります。しかし、電気にはそういうことはないではないですか。その意味では、どうやって電気を変えることの意味を感じてもらえるか、実感してもらえるかがすごく難しいですね。ぼくらもまだ試行錯誤しているところです。でも、仕掛けをいろいろと作っています。ホームページをご覧いただけると、発電所の一覧があります。そこで好きな発電所を選べます。個人の方は、全国の発電所の中から、好きな発電所を1カ月に1度選んで応援できる仕組みを作っています。発電所を応援すると、その個人の方からいただいた電気代のうち、寄付100円分が発電所に応援金として渡されます。発電所によっては、特典ありというところもあり、応援してもらったことへのお礼が届いたりします。例えば、お米だったり、ミカンジュースが届いたり、電気そのものの違いはわからなくても、二次的なつながりが作れるような、そんなことも仕掛けています。
大塚― 今おっしゃったようなケースは、みんな電力が仲介して行うのですか。あるいは発電所の方が直接、出資した方に送るようなシステムになっているのでしょうか。
真野さん― 弊社から対象のお客様を発電事業者様にお伝えして、発電事業者様が応援してくれたお客様にお礼品を送る仕組みです。もう一つ、いろいろと実感するような仕掛けを設けています。普通、電気料金の明細は、どのくらい使っていくらという金額だけですよね。みんな電力では「超明細」を作っています。自分が払った電気代のうち、発電事業者に届くお金はいくらで、みんな電力の事業運営費はいくら、このほか、送電線利用料や再エネ賦課金や非化石証書費用など、それぞれどこにいくら支払われているのかをグラフにしたものです。これによって、自分の払った電気代の行先が見えるようになる、これも一つの工夫です。
大塚― 気分的には、できるだけ発電事業者にいってほしいですよね。それにしても、この「超明細」は大事ですね。
真野さん― 電気というのは、すごく大きなポテンシャルがあると思っています。電力市場は18兆円と言われていまして、18兆円もある産業ってなかなかないと思います。18兆円のお金がどこに流れるかはとても大事です。例えば、石炭・石油火力の電気を買えば、必ずそれは国外に逃げてしまいますし、原子力でもウラン燃料を海外から買っています。でも、再生可能エネルギーって、基本的にすべて国産のエネルギーですから、皆さんが再エネの電気を選ぶことで、18兆円のお金が国内で還流するわけです。それってすごく大事だと思います。18兆円が国内で、しかも再生可能エネルギーの発電所はもともと地方に多いので、そのお金が地方に流れることによって、日本が抱える過疎や地方の活性化といった課題解決にもつながるのです。例えば、農家さんが発電事業をやっているところだと、太陽光発電をする下で作物を育てる、エネルギーと農産物の二毛作をしています。それによって、日本のもう一つの課題である食料自給率を上げることにもつながります。ですから、お金がどこに流れるかがすごく大事で、普段皆さんがあまり気にしないまま5千円とか1万円の電気代を払っていると思うのですが、実はその5千円あるいは1万円をどこに払うか、何を選ぶかがすごくインパクトのあることなのです。
大塚― 本当に大事なポイントですね。地産地消も、いろいろと言われている割になかなか進まないところがありますよね。
真野さん― 今、再生可能エネルギーが、固定価格買取制度のおかげでどんどん増えていますけれども、一方で課題も増えてきています。例えば、東京の大手資本が地方にやってきて、大規模発電所を造る、場合によると海外の財閥が資本を出していることもあります。そういうことで、再生可能エネルギーへの風当たりも強くなってきています。その時に、こういう「顔の見える発電所」で、ユーザーである需要家さんが応援したい発電所を選んでいくことで、いい発電所を増やすことにつながると思うのですね。需要家目線で再生可能エネルギーを増やすというのが一番健全な姿だと思います。そうして、日本全体の再生可能エネルギーをもっともっと増やしていくことにつながるのがいいと考えています。
大塚― まったく賛成です。
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みんな電力の超明細
モノの背後にあるストーリーに、みんなが目を向けるようになってきている
大塚― 少し話題を変えさせていただきます。電力がキーになるのはわかりますが、もう少し広げて考えると、世の中ではSDGsが最近注目されています。先ほど食料自給率のこともお話しくださいましたが、環境は健康や食料など、人間の生き方そのものと本当は近い距離にあるという理解が、十分に定着はしていないとしても、特に若い人たちには浸透しはじめているようにも感じます。みんな電力の事業からは離れるかもしれませんが、真野さんご自身がこれまで仕事をされてきた中で、どのように感じておられるのでしょうか。
真野さん― 価値観はすごく変わってきていると思いますね。私自身もそうですが、モノにあふれた今の時代に、じゃあ何に対して消費者の皆さんがお金を使いたいかというと、モノの後ろ側にある背景ですよね。モノを作るときにどういうストーリーがあるかということです。例えば、スマートフォンは生活をすごく便利にしました。今は値段も安くなって、いろいろな機種が出ています。その時に、どれを選ぶかという選択基準の一つとして、その機種を作るに当たって、どれだけの人がかかわっていて、どれだけの資源が使われているかといったところに、目が行くようになってきていると思います。できるだけ環境に負荷を与えない、児童労働もないようなモノを選びたいというように、モノの背後にあるストーリーに、みんなが目を向けるようになってきているのかなと思います。というのは、モノそのものは、安くても品質のいいものが、今の世の中にいくらでもあふれています。じゃあ、何に対してお金を払いたいかというと、そのモノのストーリーというか、そのモノを買うことによって自分が何を支持をしているのかというようなことに、若い人たちも目を向けるようになってきているのかなと思います。
大塚― むしろ、若い人たちに多いのかもしれないですね。
真野さん― そうですね。でも、企業も同じですよ。企業も何かモノを作って売るときに、少し前までだったら価格と性能だけだったと思います。もちろん品質は大事ですけれど。今では、消費者に支持される製品はどういうものかというと、価格が安いだけとか性能がいいだけという商品ではなくて、やはり、その製品のストーリーというか、大義名分が大事になってきています。例えば、アップル製品って、やはり少し高いけれど、それでもなぜこれだけ買う人がいるかというと、やはりそれだけ企業姿勢に対してみんな支持をしているのです。商品を買うということが、単に製品の性能とかコストだけではなくて、その企業をどう評価するかが、結構大きな意味をもっています。結果として、そういう企業が生き残るのではないかと思います。
大塚― みんな電力のように、スタートのころから背景にあるものを見ようとされていたので、今のお話はすごくわかりやすく感じます。電力以外のことでも、似たような発想で企業展開が増えるといいのかなと思います。
真野さん― 実は、今、ソーシャルアップデートカンパニーという形で、電力以外の分野にもどんどん広げようとしていますので、また次の機会にはぜひお話しさせていただければと思います。
大塚― そうですね。ぜひお願いしたいと思います。
どれだけ大きな社会の問題であっても、自分のちょっとした行動がつながっていくことを見せることが大事
大塚― さて、最後になりますが、真野さんから今までいろいろなお話をお聞きしてきましたが、ちょっとまだ言い足りないとか、本当はこれを言いたかったんだということがあれば、多少重複しても結構ですので、EICネットの読者に向けたメッセージとしていただければと思います。
真野さん― ぼくらは、会社のコンセプトの一つに、選ぶことの重要性を掲げています。選ぶために、ブロックチェーン技術を使って、電気も選べるような仕組みを実現しているのですが、でもその技術が大事ということではなくて、選べるようにすることが大事なのです。どうやって選ぶかというと、結局は作り手の思いなどの背景を知ってもらい、どんな電気の由来なのかといったことをお見せする。消費者もそうですし、企業さんもそうですけれど、選ぶことの重要性や影響の大きさということを、ぜひもっと広めていきたいと思っています。一般の個人のお客様と話していて感じるのは、気候変動に対する理解が高まっていることです。私は京都議定書の頃、1997年から気候変動に携わるようになりましたが、その頃は本当に一部の人たちだけが知っているような話だったのが、今では、気候変動というとほとんどの方が一応は理解しているわけです。でも、気候変動と自分の生活があまりつながっていないのですよ。気候変動が深刻な問題で、各地で豪雨被害をもたらしていて、このままでいくと地球はどうなっていくんだろうと、皆さんすごく心配されていると思うのですが、じゃあ自分がどういう行動をとれば、それが改善するように寄与できるのかというのは、皆さんあまりわかっていらっしゃらない。でも実は、簡単なことからできることがあるのです。ご家庭でのCO2排出量の約半分が電気由来ですから、その電気に再生可能エネルギー電気を選ぶという、本当に簡単なことによって、実は気候変動という大きな問題に自分も寄与できるということに気づいていただきたい。電気を切り替えること、電気を選ぶことって、簡単にできることじゃないですか。そんなふうに、どれだけ大きな社会の問題であっても、自分のちょっとした行動がつながっていくことを見せることが、やはりすごく大事じゃないかなと思います。
大塚― 大変わかりやすく説明していただきました。これからも、ますますご活躍ください。本日はどうもありがとうございました。
みんな電力事業本部ソリューション営業部部長の真野秀太さん(左)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(右)。