BEVのSUVが補助金込みで399万円は激安!? ヒュンダイ改めヒョンデが12年ぶりに日本再上陸! 黒船となりえるか?
日本のクルマ好きのみなさんは、韓国の自動車メーカー、Hyundaiに対し、どのようなブランドイメージをお持ちだろうか?
1970年代のポニー、三菱自動車との技術提携、そしてFIFAワールドカップ日韓同時開催や『冬のソナタ』をはじめとする韓流ブームという時代背景のなかで、ヒュンダイモータースジャパンの設立と、2001年に日本市場に正規導入されたソナタ、XG、エラントラ……。
Hyundaiは1967年に設立され、2021年の世界販売台数は、Hyundaiが389万台、傘下の起亜が277万台で、Hyundaiグループを合わせると666万8037台、世界5位の韓国の自動車メーカーである。
2022年2月8日、そのヒュンダイがヒョンデと名を変え、日本市場に再参入すると発表した。日本に導入されるのは、BEVのIONIQ5(アイオニックファイブ)と燃料電池車FCEVのNEXO(ネッソ)の2車種。
価格はIONIQ5が479万円~589万円、NEXOが776万8300円で、Webサイトやアプリにおいて、2022年5月からオーダー受付開始、7月からデリバリー予定としている。
2022年は日産アリアやトヨタbZ4X、スバルソルテラ、レクサスRZなどのSUV・BEVの販売競争が繰り広げられる状況だが、そこへ投入されるヒョンデのBEVははたして脅威となるのか?文/柳川 洋写真/ヒョンデモビリティジャパン
【画像ギャラリー】愛の不時着、イカゲーム……次は『ヒョンデ』だ!! 日本再参入の韓流自動車メーカー ヒョンデに要注目!!(22枚)画像ギャラリー■BEVとFCEVの2車種を2022年5月からオーダー受付開始
2009年12月の撤退から12年ぶりに日本の乗用車市場に帰ってきたヒョンデ。以前はヒュンダイと自らを呼んでいたが、2020年にグローバルにブランド呼称を韓国語の発音「ヒョンデ」に変更。日本法人の名前も今年から現代自動車ジャパンからヒョンデモビリティジャパンとなった。
今回ヒョンデが投入する車種はBEV(電気自動車)のIONIQ5(アイオニック5)とFCEV(燃料電池車)のNEXO(ネッソ)の2車種。つまり排出量ゼロのグリーンSUVのみ。
既存の日本車のシェアを奪う、というマーケティング戦略ではなく、日本の自動車業界での脱炭素化の進行とともに今後大きな成長が期待されるZEV(ゼロエミッションビークル)市場に参加して、市場の成長とともに自らのシェアを伸ばし、日本社会でのカーボンニュートラル実現に貢献していくという姿勢を明確にしている。
そしてスマホネイティブな若い消費者の嗜好と購買力を見据え、ディーラー網を持たず、時間と場所の制約なしにワンプライスでクルマを購入できる完全オンライン販売戦略が特徴だ。
キーワードは「いつでも、どこでもオンライン」。車両選びから、試乗予約、見積もり、注文、決済、納車情報の確認まですべてオンラインで完結し、購入後のサポートや点検もユーザーに与えられる「One ID」で受けられる。また、ホームデリバリー、つまり納車は自宅で受け取ることも可能とのこと。
そうはいってもディーラー網もなく、購入後の整備などはどうするのか気になるところだ。
ZEVに特化したリアルな体験拠点として、試乗や購入相談、点検、整備をワンストップで提供する「Hyundaiカスタマーエクスペリエンスセンター」を、2022年夏に神奈川県横浜市にオープンさせ、その後、同センターを全国の主要地域に各地の協力整備工場と連携して展開。さらに全国に協力工場や対応可能なロードサービス体制を構築していくとしている。
自社での国内急速充電ネットワークについては、当面ヒョンデ独自の急速充電ネットワークの計画はなく、ユーザーの家庭用充電器をサポートしていくそうだ。
またAnycaとの協業によるカーシェアリングサービスの提供を行うことも発表された。FCEVのネッソを20台、BEVのアイオニック5を100台、2022年内に配備する。さらにDeNA SOMPO Carlifeと協業し、サブスクリプション商品を「SOMPOで乗ーる」も提供される。
■2009年日本撤退のお詫びを「迷途知返(めいとちへん)」と表現
今回のメディア向け発表会の冒頭、Hyundai Motor Company社長兼最高経営責任者である張在勲(チャン・ジェフン)氏から日本市場参入の背景についての日本語でのビデオメッセージが流された。前回の日本の乗用車市場参入と撤退のお詫びから、スピーチは始まった。
「私たちが、最初に日本での乗用車事業を開始したのは2001年のことです。しかし、皆様もご存じの通り、2009年に一度日本から撤退することとなりました。これにより、ご期待をお寄せいただいていたお客様には、大きなご迷惑をおかけしました。
この撤退の最大の原因は、当時の私たちヒョンデが、一人ひとりの大切なお客様の声に、しっかりと耳を傾けることができていなかったことだと考えています。
日本市場からの撤退は、ヒョンデにとって、大きな痛みを伴うものでした。そこからの12年間、私たちヒョンデは、様々な形でその痛みに向き合い、真摯に受け止めてきました。
そして私たちが常に忘れなかったものがあります。それは、客様との絆です。撤退時点で、日本のお客様にご利用いただいていたヒョンデの車両は1.5万台。
そこから12年がたった今では、全国で600台ほどになっています。この間、私たちヒョンデの車をご愛用いただいているお客様に、毎年車両点検を提供し、大切なお客様との絆を守り続けてきました。
今回、ヒョンデが再び日本市場に参入することを決定した背景には、こうした「お客様との絆」がありました。参入にあたっての私たちの姿勢は『迷途知返』という言葉で表すことができます。これは、一度道を誤った後に、正しい道に戻って改めるという意味のことわざです。
私たちは、改めて原点に立ち戻り、真摯にお客様一人ひとりに向き合い続けることを決意しました」。
正直、筆者としてはその黒歴史はもう忘れてしまってもいいのではないか、あるいはあえてもう語らなくてもいいのではないか、とも思う。なぜなら、前回の参入と撤退を記憶している層は、今回のヒョンデのターゲットとしている層と全く違う気がするからだ。
前回の失敗のおさらいをしてみよう。
2001年に参入し、2009年に撤退するまでの9年間に日本で売れた乗用車の総販売台数は1万5095台。2021年のHyundai Motor単体での1年間での総販売台数は389万台であることを考えると、いかに日本市場で上手くいかなかったかがわかる。
2002年にはFIFAワールドカップが日韓共同開催され、2003年には韓流ドラマ「冬のソナタ」が大人気に。日本市場参入のタイミングとしては日韓の距離が非常に近づいた悪くない時期だった。
当初投入されたXG、ソナタなどの中型4ドアセダンは、日本ではトヨタカムリやホンダアコードと同じカテゴリーで競合していた。
ソナタのCMには、「ヨン様」として30代以降の世代の日本女性に絶大な人気を誇ったペ・ヨンジュンが起用された。ただし彼女たちはトヨタヴィッツやホンダフィットのような小型車を好んだため、CMの効果は限定的だった。
そもそも当時から中型セダンの人気はやや翳り始めており、その主なユーザーである保守的な中年男性が、わざわざ慣れ親しんだ日本車を捨てて、ソナタを積極的に選ぶだけの理由に乏しかった。
またその他に投入された小型セダンエラントラ、中型クロスオーバーSUVのサンタフェなども、日本車と比べて大きな差別化要因に欠けたことから、当時のヒュンダイ車の登録台数は、最も販売台数が多かった2004年でも2524台にとどまった。
だが、今回は前回と全く異なる。
ブランドイメージが確立できていない新興プレイヤーとして、競争の激しく保守的な市場に差別化に乏しい商品を持って参入して味わった12年前の苦い経験から、ヒョンデは確実に学習している。
保守的な中高年層ではなく、新しい価値観を持ち、K-Popや韓流ドラマなど韓国のソフトパワーに慣れ親しんだ若年層にターゲットを設定。
デジタルネイティブで、時間と移動を伴う実店舗での買い物よりもその場で今すぐできるオンラインショッピングに親しみを覚える世代に、実店舗でのディーラー網を整備するのではなく完全オンラインで商品を提供。
既にグローバルに販売されている2車種の販売のみに絞り込むこととあわせ、市場参入の初期投資と固定費を削減。
韓国に親しみを持ち、カーボンニュートラルなど環境問題への意識が高い若い世代の購買力不足に対応するための、カーシェアやサブスクリプションなどの車両購入以外の新しいモビリティの手段の提供。
ヒョンデのクルマのオーナーにお勧めされて新しくオーナーになれば、勧めた方も買った方も両方リファーラルフィーがもらえるバイラルマーケティングだ。
成熟した市場でコモディティ化した商品を展開するのではなく、成長の余地が非常に大きな日本のZEV市場において、万人受けを目指さず、一部の人に強く「刺さる」尖ったコンセプトの商品のみ展開するとしている。
「グローバルで売れているのでそのままでも日本でも売れるはず」という思い込みではなく、日本で最も普及した急速充電システムCHAdeMOの採用、車両電源を電気製品や自宅に供給できる機能の搭載、右ハンドル&右側ウインカーレバー、ビルトインのドライブレコーダー導入などの日本市場向けローカライゼーションもしっかり行われている。
カタログも諸元表、装備表など細部までチェックしたが、しっかりと丁寧に作り込まれており、ヒョンデが日本市場にかける意気込みを感じた。
ヒョンデモビリティジャパンのホームページはこちら!
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