掃除機に革命、からまないブラシで髪やペットの毛にも強いパナソニック「パワーコードレス」
ここからは、本当に毛が絡まないのか? と、にわかに信じられない方への説明だ。何しろヘッド周りの技術革新は、ブラシが付いてから53年ぶりになるのだ。
主にエンジニア系向けなので、「結果が分かれば、それでよし! 」という方は、次の節まで読み飛ばしてもらって構わない。
仕組み自体はものすごく簡単。実用新案ではなく特許申請できる、身近な物理の法則を使ったもの。まずスロー映像を見てほしい。
「からまない」スロー映像見てわかるのは、ブラシの形状だ。通常は1本の円柱にブラシがついている。しかしパワーコードレスは、先が細くなった円錐型のブラシが2本ついている。さらにそれぞれのブラシが左右独立して、中央部は完全に切り離されている。
円錐型のブラシが左右についていて、中央には毛を吸い込むためのすき間があるこうすることで、ブラシに絡んだ髪の毛やペットの毛は、ブラシが回転すると、どんどん細い先端部に寄せ集められ、最後は2本のブラシの隙間から、吸引口に吸い込まれるようになっている。言われてみれば超簡単なしくみだが、53年間誰も思いつかなかったアイディアだ。
しかしアイディアだけでは製品にできないのが家電の難しいところ。先の写真を見るとヘッドの先端に、円錐のフチが当たるようになっている。それだけでなく円錐のフチは床面に対しても全面が当たっている。
円錐のフチはヘッドの前面と床面に当たるように取り付けられているそのため円錐の根元は、左右両端に上下左右に傾いて支持されている。これだけ大きな円錐のブラシを左右2cm程度のモーター部分で片支持しているのだ。フローリングならいいが、毛足の長いラグやじゅうたんも掃除するので、それぞれのブラシには相当の負荷がかかる。そのため、ブラシの中には軸ぶれしないように金属製のシャフトが埋め込まれているのだ。
ヘッド部分をバラしたところ。エンジニアの血ヘドの数々が見られて、ただ感心するばかり! 分解防止ネジが使われているので、一般の方はバラせません。またメーカー保証外になるのでご注意くださいさらに、ブラシを斜めに支持しなけらばならない。これまた設計が難しい上に、今まで以上に太いブラシなので負荷も大きく、根元で支持する強度も求められるのだ。何年か使っても壊れない、多少の衝撃でも壊れない製品にするには、「円錐ブラシだ! 」というアイディアだけでは製品化できないのだ。
また、毛を中央に寄せるには、もうひとつ大事な機構が必要。それがヘッドカバーについているテフロンテープ(パソコンのマウスの裏についている滑るシール)だ。床面とブラシの間にペットの毛や髪の毛が引っ張られ、徐々に中央に寄っていくが、スベリが良すぎると中央に寄らない場合がある。このテフロンテープは、これらを確実に中央に集めるためにアシストしているのだ。しかもグレーのテフロンテープが見えるとデザイン的にダサイのか、わざわざこれを隠すように黒いテープで隠している(笑)
ヘッドのカバー裏についているテフロンテープ。コイツがないと糸を中央に手繰り寄せられないカバーなしでも床と糸との摩擦が十分にあればブラシ中央に寄っていくが、テフロンテープによって、髪の毛やペットの毛など細く抵抗のないものでも確実に中央に寄せるように工夫している掃除機に詳しい方は、「普通のブラシはフローリング用とカーペット用など何種類もの毛を植毛しているのに、パナソニックは1つだけ」と思われるだろう。実はこれにも理由がある。一般的なブラシは、フローリング用の柔らかいブラシを多めに植毛、ラグ用の固めのブラシを少なく植毛している。なかにはこれに、毛ゴミ用のゴムを入れたり、静電気防止用に銀の糸を入れたりと色々趣向を凝らしている。
ここで問題になるのは、ラグ用の固めのブラシ。植毛が少ないのでブラシのすき間に毛を巻き込んでしまいがちなのだ。簡単に言うとクシのような役割をしてしまい毛をどんどん巻き込む。
一般的なブラシ。太めの柔らかい毛の植毛と、細く硬いブラシが交互に植毛されている「からまないブラシ」。見た目では分からないが1本のブラシの中央が硬い植毛、それをサンドイッチするように柔らかい植毛がされている。しかも毛の量が尋常じゃなく多いパナソニックの「からまないブラシ」は、色が同じブラシなので1種類の毛にしか見えないが、注意してブラシに触れてみると、ラグ用の固めのブラシを柔らかいフローリング用のブラシでサンドイッチしているのだ。しかも植毛の量のエラく多いのが分かるだろう。
こうすると硬い毛の間に毛が入り込まなくなる。しかも植毛の量が多いので、ペットの毛や髪の毛はブラシの奥に食い込まず、常に表面に張り付いている状態になるのだ。
従来のブラシでは、硬いグレーの毛(ラグ用)のブラシの間に糸が食い込んでいたかまらないブラシでは、ブラシの毛の上に糸が乗っかっているだけそこですかさず、表面の毛をテフロンテープで押さえてやると、あれよあれよとブラシの表面を毛が移動していくというわけだ。しかも、パナソニック以外のブラシは斜めに植毛されているが、パナソニックはV字に植毛してあるので、ヘッドの端で捕らえたゴミを吸い込み口の中央に集める。コレ、実はパナソニックの特許。
パナソニック以外のブラシの植毛は斜めになっているパナソニックは、V字に植毛されたブラシをこれまでのモデルに展開。ヘッドの端で捕らえたゴミを中央にかき寄せる次に、新しい「からまないブラシ」を見てみると、円錐形を斜めに取り付けたので、結果的にV字植毛と同じ効果を得られるのだ。スゲー!
円錐型のブラシなので、吸い込み中央部分はそのままにしておくと大きな空間ができてしまい、空気の流れが遅くなり真空度も悪くなる。そこで、ヘッド裏面の中央に凸部を作り、ヘッド上部には凹みを作ることで、しっかりゴミが吸い取れるように気流と気圧の調整もしているのだ。カバー中央部はブラシとブラシのすき間ができてしまうので、これを補うようにV字の羽を設けて、中央のゴミも取り逃さないように工夫されている。
ヘッド裏面の中央には、普通の掃除機のヘッドにはない凸部分の気流制御板を持つヘッドを前から見ると通常の掃除機にはない、中央部の凹みがある。これも気流制御用ブラシのすき間ができてしまう部分も真空度が低くなるので、気流制御用の羽を付けているこのようにアイディアとエンジニアリングと工夫がめちゃくちゃ盛り込まれたのが「からまないブラシ」なのだ。
ブラシ用のモーターが2個に増えたこと、ブラシの直径が太くなり負荷が高くなったこと、さらにブラシを一定の力で押さえ糸ゴミを中央へ手繰り寄せる機能が増えたことで、以前のパワーコードレスに比べ若干運転時間が短くなっているのは、この際仕方ないというのがエンジニア視線の筆者の考え。むしろ数分しか短くならなかったのが不思議なぐらいだ。
以前のパワーコードレス用に「からまないブラシ」のみを販売して欲しいという声も多数あるだろう。しかしヘッドに回す電流が増えているので、残念ながら以前のモデルでは利用できない(互換性はない)。