バルミューダはなぜ独自のものづくりができる? “浮かぶ”掃除機の開発者に聞いた
使う人が自分で動かすから難しい? 掃除機のデザイン
バルミューダがこれまで手掛けた家電は、扇風機、サーキュレーター、スチームトースター(オーブントースター)、Bluetoothのワイヤレススピーカーなど据え置き型の家電ばかり。それに対し今回の新製品BALMUDA The Cleanerは、掃除機のためユーザが自分の手に持って使う。そのため、他の製品よりも、デザインの調整に時間を要したとのこと。
カラーはホワイトのほかにブラックも用意「掃除機のデザインは普通の製品よりも大変でした。考えることが製品の外観デザインだけではないんです」と比嘉氏。これはどういうことなのだろうか?
「掃除機は人が自分で動かす家電なので、確認することがたくさんあるんですよ。僕はサーキュレーターのデザインから関わっていますが、これまでの製品と比較して圧倒的に検討項目が多かったですね。検討項目があれば試作機を作って、実際に動かしてチェックするというキャッチボールの繰り返しです。仕様が変わって、例えば2mmサイズが変われば、それに合わせてデザインを調整するなど、細かい作業が続きました」(比嘉氏)
当たり前だが、スティック掃除機は、人が手に持って動かす家電だ。そのため、ちょっとした違和感が不満につながる。重心のバランス、手首にかかる負荷、風路設計、ゴミを捨てる時の操作性、充電台の着脱のしやすさなど、細かい調整が必要というわけだ。バルミューダ製品の開発期間は平均1年だが、BALMUDA The Cleanerの場合は約2年を費やしたという。
「週1回、クリエイティブ部の部長も兼任している寺尾とのデザインミーティングがあるのですが、掃除機の場合は実際に動く試作機を作らなくては細部まで検討できません。3Dプリンターを使うだけでなく、手元にあるものを使って動く試作機を毎回作りました」(比嘉氏)
比嘉一真氏「図面を起こすよりも、アイデアをまず実際に形にしてみるのがバルミューダらしいところかもしれません。私は、掃除機の開発期間中に入社しました。他社を経験したから分かるのですが、メンバーのフットワークの軽さ、発想の飛躍のしかた、無邪気さ、自由な雰囲気はバルミューダならではの面白さですね」(原賀氏)
試行錯誤の結果誕生したBALMUDA The Cleanerは、ホウキのように前後左右に動かせる操作性が魅力。2本のブラシで摩擦抵抗を低減し、さらにそれを自在に操るための「360°スワイプ構造」を採用し、滑らかな動きを実現したという点が特徴だ。
通常は1本のブラシを2本備える自在なヘッドの動きを実現する「360°スワイプ構造」そもそも、前後左右に動かせる掃除機を作るというアイデアは、どこからうまれたのだろうか。同社のWebサイトで明かされている「開発ストーリー」では、バルミューダ近所の蕎麦屋「三河屋」で寺尾社長とエンジニアが相談したとのこと。
「三河屋では、寺尾の『掃除機が使いにくい』という話からアイデアを出していきました。掃除機の現状や使いにくさ、歴史など整理していくと、元々は家の掃除にホウキを使っていたというところに行き着いたんです。ホウキは前後左右に動かせますよね。でも掃除機はそうじゃない。それで掃除機に対する固定観念が崩れてもっと自由に作っていいんだと思いました」(比嘉氏)
「今までの掃除機をベースにして作ると、BALMUDA The Cleanerのような進化はしないと思います。“掃除機の開発”として進めると、『電池が足りないからバッテリーを多くする』『もっと吸うためにパワーを上げる』という形になるんだと思います。でもバルミューダでは、“掃除機”という前提を一度無視し、実現したいことを形にする無邪気さがあり、BALMUDA The Cleanerが誕生したのだと思います」(原賀氏)
今までの掃除機が不便だったという気づき。そこから誕生したのがBALMUDA The Cleanerなのだという。ホウキから着想を得たという目で見ると、すらりと伸びた柄はホウキのそれに見えてくる。従来の掃除機と違い、両手でも持ちやすい。
掃除機はメカメカしいデザインが多いが、BALMUDA The Cleanerはシンプル。正面から見たときにダストボックスやボタンなども見えないため、家電というより家具のように空間に溶け込む。このシンプルさも、ホウキから着想を得ただろう。
すらりと伸びた柄はホウキの柄のよう。個人的には柄に施された刻印にぐっとくるボタンは1つでシンプル両手でホウキのように持って使える実際に動かしたことがある人は分かるかもしれないが、BALMUDA The Cleanerは軽くてなんだか楽しい気分になる。前後左右、自由に動くため、壁際は、横になぞるように動かせるのも面白い。
「横に動かす時にスムーズになるよう、試作機でミニ四駆のローラーを四隅に外向きに取り付けてみました。想像以上にうまくいったのでそのまま採用しました」と比嘉氏。
ヘッドの四隅にローラーを備え、横の動きをサポートする片手でもすいすい動かせるということで、使った人からは「掃除が楽しくなった」「今までにない掃除機」というコメントが多く寄せられているという。
その中でも原賀氏には印象的なものがあるそうだ。
「車椅子を使っているお客様から『座ったまま使える掃除機は初めて』と感想をいただいたことがあります。軽い操作性と前後左右に動く自由度の高さで、今までになかったものを形にできたと思える出来事です」(原賀氏)