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ロボット掃除機「ルンバ」成功の3つのポイント、スマートスピーカーとの連携【iRobot社 CTO クリスジョーンズ氏インタビュー(1/2)】

世界で最も販売実績のある家庭用ロボットと言えば掃除ロボットの「ルンバ」だろう。全世界で2,000万台以上の販売実績を誇る。日本での販売も好調だ。ロボット掃除機「ルンバ」と、更に床拭きロボット「ブラーバ」シリーズを合わせた国内累計出荷台数が、2018年9月末時点で300万台を突破した。いま、iRobotには勢いを感じる。2018年10月にはアイロボットジャパンがロボット掃除機の新製品「ルンバe5」を発表した。この機種は従来の600/700シリーズに比較して、カーペット上では5倍の吸引力を実現しているという。稼働時間も大幅な進化を遂げ、1回の充電による最大稼働時間が90分に延長された。

右がアイロボットジャパンが販売する「ルンバe5」。10月26日発売。49,880円(税抜)。左は床拭きロボット「ブラーバ」(Braava)ジェット。

ロボスタの読者が注目すべきは「Wi-Fi」とスマートスピーカーに対応したこと。スマートフォンのアプリ操作によって、外出先などからルンバの清掃を開始できるほか、清掃完了時にはスマートフォンに通知が届いたり、清掃状況の確認ができるようになった。また、「Googleアシスタント」や「Amazon Alexa」と連携して、音声で話しかけてルンバを操作することができる。

スマートフォンのアプリからルンバを操作したり、情報の確認できるようになった

■ Roomba e5 Video Overview 30sec (動画)

Wi-Fi機能を搭載して、スマートホームとの連携も視野に入ったルンバ。なぜここまで多くの消費者に支持されているのだろうか。さらに今後はどのような方向に開発が進むのだろうか。ロボスタは来日中のiRobot社のCTO(最高技術責任者) クリス・ジョーンズ氏に単独インタビュー、話を聞いた。

iRobot社 CTO(最高技術責任者)のクリス・ジョーンズ氏(Mr.Chris Jones, Ph.D)。WRSの講演に登壇するために来日した

編集部

私はWRSの決勝戦の審査員をつとめていたため、ジョーンズさんの講演を拝聴することができませんでした。非常に残念です。当日の講演の内容をサマリーだけでも教えていただけますか

Jones氏

WRSでは、これから加速していくロボットの働きをみなさんに理解して頂くため、ロボットの思考に関するプロセスを説明したり、自動で効率的な動きができるしくみなどを「ロボット時代の到来」というタイトルで紹介しました。「Robotics Thinking」が既にスマートフォンや自動運転、物流センターなど、他の業界にも大きな影響をもたらしていることも話しました。

編集部

なるほど。「Robotics Thinking」やプロセスについて詳しく教えてください

Jones氏

物理的な視点から見れば、ロボットはハードウェアとして身体を持ったデバイスです。感覚(センサー)でさまざまなことを理解し、考えて行動にうつします。そのプロセスは、まず周辺や環境を「感知」します。そして周辺の環境を把握するために「考える」、その上で変化に対応しながら「行動する」という流れです。この「考える」上では「空間認識」が特に重要です。ルンバを例にすれば、部屋の形状はどうなっているのか、どういうレイアウトなのか、充電ドックはどこにあるのか、などの周囲の状況を把握することで「適応性」が飛躍的に上がります。このプロセスは自動運転や倉庫の自動化、そしてスマートホームなどにも応用することができます。

感知する→考える→行動する→そしてまた考える、のサイクル。ルンバもこのサイクルで部屋のレイアウトがどうなっているのか、自分がどこにいるのかを考えながら行動する

スマートホームはまさにロボットです。いろいろなセンサーが配置されて状況を「感知」し、照明を付けたり鍵の開け閉めなどの「行動」を起こします。センサーからの情報によって「考える」部分は「Robotics Thinking」の能力が必要となります。ルンバは家の中でそれを実現しているので、スマートホームの実現において非常に重要なポジションにあると言えるのではないでしょうか。

編集部

ルンバが多くの人に支持されている理由はどこにあるのでしょうか

Jones氏

iRobot社は28年間ロボットに携わってきました。その経験を踏まえて言えば、成功するには3つの重要なポイントがあると思っています。ひとつは「便利な機能を実現する技術力」、ふたつめは「世界中のさまざまな家の環境の中でその機能が果たせる適応性(汎用性)」、3つめは「その機能や技術を消費者が受け入れられる価格」を実現できることです。この3つが揃えばビジネスとして成功することができると考えています。ルンバは2002年以来、16年間、この3つのバランスをとり続けてきました。効率性とイノベーションを提供しながら、手の届きやすい価格で提供してきたことが支持されている理由だと思います。

編集部

技術的には特にどんな点にアドバンテージがあると考えていますか?

ロボット掃除機「ルンバ」成功の3つのポイント、スマートスピーカーとの連携【iRobot社 CTO クリスジョーンズ氏インタビュー(1/2)】

Jones氏

イノベーションの面で特に私たちがフォーカスしている分野は先ほども触れた「空間認識」です。サイクルの「考える」に繋がる部分です。特にルンバ900シリーズでは家の中のマップを作成することができるようになったことで効率的な掃除ができるようになりました。技術力、適応性、価格の3つのポイントを上げましたが、適応性はとても大切です。一部の家庭では有効だけれども、別の家庭ではうまく機能しないということでは機能としては不十分です。「空間認識技術」によって、あらゆる環境やレイアウトに合わせて掃除を最適化する「適応性」が生まれます。そして、それがルンバの強みだと思っています。また、新しいイノベーション技術を低価格帯のモデルにもできるだけ早く反映させ普及させていくことも重視しています。最新のルンバ e5でもプレミアムクリーニングシステムを搭載しています。高機能モデルから普及モデルまで、新しい機能をできるだけ多くの製品に取り入れていくようにしています。

ルンバの空間認識のマップにはビジュアルSLAM(vSLAM)技術が使われていて、ナビゲーションのコア技術となっているとともに、vSLAM技術ではリーダー的な存在となっている。Vカメラによるビジュアル技術にとって最大の課題は照明や窓から差し込む光が多種多様で、時には視界を遮ることもある。ジョーンズ氏はルンバのvSLAMは照明や光の影響を含めて絶えず学習し続けているため、様々な環境の部屋に適用することができると語った。■ Roomba 980 Robot Vacuum Cleans a Whole Level of Your Home (動画)

編集部

数ヶ月前にロドニーブルックス博士にインタビューしました。そこで私が「ブルックス博士の”サブサンプション・アーキテクチャー理論”(SA)はルンバにどのように利用されていますか」と質問したら、博士が「うーん、その質問はiRobotにしてもらえないでしょうか」と言われました(笑)。

Jones氏

なるほど(笑)。SAはルンバにとって重要な中心技術のひとつです。センシングとアクションを緊密に結びつけているのがSAです。例えば、ルンバには段差を検知するセンサーがついていて段差をみつけたら後退するという動きがありますが、それはライブラリに登録することで実現しています。ひとつのロボットが多くの行動の集合体として機能するための中心の技術だと思っています。SAがあるからこそロボットとして一貫した行動をとることができるのです。

編集部

Wi-Fiやスマートスピーカーに対応しましたが、消費者やiRobot社にとってどのような利点がありますか?

Jones氏

私たちはユーザに対して利便性の高い価値を提供するためにスマートスピーカーの音声操作に対応しました。ボタンを操作したい人、アプリから操作したい人、音声で操作したい人、さまざまな操作方法に対応しました。音声の場合、「掃除をはじめて」「掃除をやめて」「充電ドックに入って」と言った操作が可能です。また、将来は音声で特定の部屋だけ掃除をさせる、ということもできるようにしたいと思っています。「ソファーのある部屋を掃除して」みたいに。音声はロボットと最も自然にやりとりができる形態だと思っています。

編集部

将来、スマートホームや音声と連携することでどんなことができるようになるでしょうか。予想を聞かせてください

Jones氏

今後ユーザニーズがどの方向に進むかにも寄りますが、スマートホームとの連携ということで言えば、掃除のスケジュールを設定したり、掃除の完了通知をスマートスピーカーや他のデバイスで受け取ることなどが考えられます。また、スマートホームのセキュリティ装置と連携すれば、家に誰もいない留守の時だけ自動で掃除を行うようになるかもしれません。他のスマートホーム装置とはいろいろに連携が考えられるでしょうね。

編集部

Wi-Fiによってマッピングや掃除の方法など自律的に学習していくような機能は考えていますか

Jones氏

Wi-Fiやクラウドによる学習より、掃除機のオンボード・センシング技術によって、よりインテリジェントになると考えています。例えば、家の中のどこにどんな家具があるのか、家電があるのか、個々の家の理解度が高まることによって、ルンバの対応力も増していきます。「ソファーのある部屋を掃除して」と言われたときに、どこの部屋を掃除すればいいかの判断は、ルンバがネットとやりとりするのではなく、個々のルンバが学習しているからこそ実現できるものです。

ロボットの学習はクラウドが主流になりつつあるが、あえてロボット単体のオンボードでの処理にこだわる理由や利点はなんだろうか。次回の第二回はその点を詳しく聞くとともに、コンパニオンロボット、ヒューマノイドロボットについてどう捉えているかも聞くとともに、今後のルンバの進化についても言及していたい。第二回につづく。> 今後のルンバの進化、会話ロボットやヒューマノイドを語る【iRobot社 CTO クリスジョーンズ氏インタビュー(2/2)】

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