バイデン米大統領の大胆な環境政策 ~COP26で中国と共同声明、矢継ぎ早の大規模予算案で強まる存在感~ wisdom SDGs特集 NECの脱炭素社会に向けたエネルギー関連の取り組み どう変わる?バイデン新大統領のテック政策 ~独禁法、フェイク規制など厳しさを増すGAFAを取り巻く環境~
COP26で存在感「いつでもどこでもいるアメリカ」
スコットランドのグラスゴーで、2021年10月31日から2週間にわたりCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)が開催された。環境対策への国際的同意締結へ向け話し合うため、197カ国から2万人以上の代表団が集まった。「産業革命以前と比較して世界の平均気温上昇を2℃未満に保ち、1.5℃まで抑えるよう努力する」という、パリ協定で示された目標に対し、国家間の具体的な協定を締結することが目的だった。
結果としては、石炭使用量の削減や二酸化炭素税の設定、化石燃料に対する補助金の打ち切りなどへのコミットメントが足りないという批判が国連や環境団体などからなされたまま、閉幕となった。一方で、二酸化炭素よりも短期的に効果の見込めるメタン排出削減を促進する誓約にアメリカを含む100以上の国と地域が合意するという成果もあった。また、グローバル炭素市場で複数国が同じ二酸化炭素削減量を自国の努力結果として扱うことを禁止することに同意したり、発展途上国の環境対策やその予算を先進国が負担する仕組みについて議論が交わされたりもした。
だが、COP26に関連する発表で最も驚かされたのは、期間後半でアメリカと中国が共同声明を発表したことだろう。その声明には、両国がパリ協定の意義をあらためて認識し、共同で規制フレームワークの取り決めやメタンの測定、パリ協定の示す目標達成に向けて協力をしていくという姿勢が織り込まれている。下図に見られるように中国とアメリカは、世界の二酸化炭素排出量の43%を占める。彼らが協力してパリ協定目標達成を目指すということで、他の国へ模範を示し、大きな影響を与えることになったのである。
この共同声明を発表したのはジョン・ケリー氏である。元米上院議員で国務長官でもあった彼はバイデン政権初日、バイデン政権で新たに置かれた気候変動問題担当大統領特使(US Special President Envoy for Climate)のポジションに任命された。この共同声明の前にケリー氏は、COP26の会場で連日朝3時まで中国代表団と交渉していた。さらに、ヨーロッパ、インド代表団などとのミーティングも行っていただけでなく、太平洋の小国の代表団から環境状況を聞いたり、オバマ元大統領を引き連れて数カ国の代表団とプライベートミーティングを行ったりと、精力的に活動していた。世界経済フォーラム(World Economic Forum)と協力して二酸化炭素を排出しないテクノロジーの利用にコミットする、Amazon、Maersk、Bank of Americaなどの先発企業の連合体であるファースト・ムーバーズ・コアリション(First Movers Coalition)を発表することもした。
こうした一連の活動によって、COP26で「いつでもどこにでもいるアメリカ」を演出し、その存在感を示した。その様子はThe Boston Globe紙が伝えている。トランプ前大統領政権が2017年にパリ協定から脱退したことで、アメリカは他の国から国際的環境対策へのコミットメントを疑問視されていた。しかし、バイデン大統領の命を受けたケリー氏が、引退前の最後の仕事として、アメリカが世界の環境対策の舞台へ復活し、環境対策でもリーダーシップをとっていくことを示したのだ。