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Dec

失敗しない自社ECサイトを作る戦略立案のポイント。ターゲット、ポジショニング、4P分析など構築前の下準備【戦略策定フェーズ】

ECサイトを構築・運営する前の下準備であり、最も重要な「EC事業の戦略策定」について解説します。具体的には、基本戦略とマーケティング・ミックスを策定し、事業計画書を作成する流れになります。それぞれの項目について、私が運営するECサイトの例を踏まえて詳しく説明していきます。

Contents
  1. 基本戦略を策定する
  2. マーケティング・ミックスを策定する
  3. EC事業計画書を作成する

1.基本戦略を策定する

基本戦略では、顧客層を設定する「ターゲティング」と、自社の目的やどのような価値を提供するべきかの「ポジショニング」の2つを明確に定義していきます。

ターゲティング

ECサイトに限らず、商売をする上でどのような顧客層を想定するかは、基本かつ重要なことです。

しかし、モノが溢れかえる今の時代、必要最低限のモノはすでにほとんどの人の手元にある状況です。そのような状況下では、消費者はモノではなくコト、その商品を通じて得られる体験、今までにない利便性などを求めています。

従って、「20代女性」といった漠然としたターゲットではなく、本当に商品を届けたいと思っているターゲットに届けられるよう、より詳細かつ具体的にターゲットを絞った方が、サイト訪問者数は減ったとしても購入率は上がります。

100人が訪問して購入する人が1人より、10人訪問して1人が購入してくれるようなサイト作りをめざしましょう。

具体的な人物像を描き、シナリオを作成

自社のECサイトはどのような顧客層をターゲットしているのか、実際に存在する想定で具体的に人物像を描き、主人公にして物語風にしてみる方法がおすすめです。

まずは、性別・年齢・居住地域・家族構成・職業・趣味・悩みなどを想定し、主人公(=ペルソナ)を作ってみてください。

その上で、この主人公の日々のルーティンを想定します。どんな悩みを解決するために、どんな商品を探しているのか。通勤中の電車内でスマートフォンを使って検索しているのか、それとも帰宅後に自宅パソコンで検索しているのか。どんなキーワードで検索しているか、予算はどのくらいか、などのシナリオを作ります。

具体的・詳細にペルソナを作ることにより、ECサイトを構築する上で、顧客目線のデザインなど戦略・戦術策定に大きく寄与します。

たとえば、健康器具を製造・販売している企業であれば、次のようにペルソナを設定します。

ペルソナ

44歳男性、東京都西多摩郡在住。家族は妻と子供3人で、町工場を経営。趣味はウォーキングとランニング。最近ダイエットに成功したが、筋肉まで落ちてしまったのが悩み(これは著者のことです)。夜な夜なスマートフォンでネットショッピングをしている。

ペルソナから考える戦略・戦術

ポジショニング

ポジショニングとは、ECを通じて顧客にどんな価値を提供したいのか、顧客のどんな問題を解決したいのかを明確に示し、競合他社のなかから自社製品を選択してもえるよう、顧客に認識してもらうための活動です。

ここでの価値提供とは、顧客視点であることが一番重要です。「〇〇にこだわりました」「最高性能」といった、顧客に一方的にPRすることではありません。顧客は製品自体ではなく「この製品を使うことでどんなメリットがあるのか、どんな問題が解決できるのか」など、製品を通じて得られる体験を求めています。

つまり、企業側は顧客に対して、最高のユーザー体験(UX:User Experience)を提供することが使命となります。こだわりや機能は最高のユーザー体験を支える一要素に過ぎず、顧客が求めていないこだわりや機能では意味がありません。

UXは製品以外にもサイトのわかりやすさ、納期、決済方法、送料、保証など注文から製品が届いて使用する場面、アフターサービスなど、顧客が製品やサービスを体験するすべての要素が含まれます。

具体的な例で考えてみましょう。

✕:創業以来こだわりの伝統的な製法で最高品質です。→「最高品質って何?」「だからどうしたの?」というのが、顧客の率直な感想となります。

○:お客さまの大切な筆を痛めることなく、滑るような書き心地をお約束します。創業以来こだわりの伝統的な製法で表面をツルツルに仕上げているから実現できました。→ユーザーが得られるメリット、問題解決を提示した上で、根拠としてのこだわりを示しています。

設定したペルソナの立場に立ってみて、「だからどうしたの?」「それって私にとってどんなメリットがあるの?」と深掘りしながら作り込んでいくとわかりやすいでしょう。

自社の優位性と顧客のニーズが合致したところが最大の強みとなり、自社のポジションとなります。いくら自社の優位性を出したところで、顧客の問題解決やメリットにつながらなければ意味がありません。

UIについて

UXと同時に語られる概念にUIというものがあります。

UIは「User Interface」の略で、ユーザーと機械・サービスとの接点という意味です。ECサイトであれば、主にサイトのデザインを指します。また、電化製品のリモコン、パソコンのキーボードなどもユーザーと機械の接点であり、UIとなります。

今回は、「UIはUXに含まれる重要な要素の1つである」ということを理解してください。

失敗しない自社ECサイトを作る戦略立案のポイント。ターゲット、ポジショニング、4P分析など構築前の下準備【戦略策定フェーズ】

ECサイトを取り巻くすべての要素で顧客が満足感を得られるようにサイト構築することで多くの競合企業の中から選んでもらえるようになります。

USP:自社ECサイトの「特徴」「強み」「メリット」を考える

自社のビジネスの売りと、そこから得られる顧客にとってのメリットを凝縮した独自の強みがUSP(ユニーク・セリング・プロポジション:Unique Selling Proposition)とよばれるものです。これからECサイトを構築していく上で、全ての施策の骨格となります。

ここでの注意点は「本当にユニークであるかどうか」です。

たとえば、食品であれば「無農薬素材」や「国産素材」などは、取り組みとしては素晴らしいですが特別ユニークではなく、今では目にする機会も多いでしょう。

前回の記事で解説した、自社を分析した結果がここで役に立ちます。さまざまな視点、環境を分析した上で、自社のユニークさはどこなのか、徹底的に検討します。

それは、顧客の気持ちを揺さぶるインパクトはあるのか、わかりやすく、伝わりやすいのか。今後の売り上げを左右する内容ですので、ここは手を抜かずに考え抜きましょう。

私が運営するECサイト「卒塔婆屋さん」の事例を見てみます。

USP:必要なときに、必要な分だけ、最短翌日お届け!

主要顧客であるお寺が抱える問題や、SDGs(持続可能な開発目標)などの社会トレンド、自社の強みなど、ここまでに解説してきたステップを踏まえて、この短いUSPにたどり着きました。

ECサイトではこのUSPを画面左上ロゴと同じ位置に配すると、顧客にインパクトを与えることができます。

さて、ここまででだいぶECサイトの大枠は見えてきました。しかし、まだまだ抽象的なので、今度は具体的な施策に落とし込んでいく段階になります。

2.マーケティング・ミックスを策定する

マーケティング・ミックスとは、以下の4つの要素に分解して考え、戦略を策定していく作業です。「製品戦略(Product)」「価格戦略(Price)」「宣伝戦略(Promotion)」「流通戦略(Place)」の頭文字を取って、「4P分析」と呼ばれています。

① 製品戦略(Product)

品質・デザイン・ブランド名・パッケージ・サービス・保証など、企業がユーザーに提供できる価値すべてを製品と定義します。「製品を通して顧客ニーズをどう満たすか」「製品を通して提供できるメリットは何か」という顧客目線で考えることが大切です。ポジショニングの考え方をより具体的に落とし込みます。

「卒塔婆屋さん」を例にすると、「卒塔婆のバラ売りや即納体制で顧客の倉庫代わりになる」という内容になります。

② 価格戦略(Price)

価格決定は、ターゲティングで設定したペルソナ(主人公)にとって「購入してくれる価格なのか」「製品価値との整合性はあるか」「適正な利益を得られる価格であるか」を考えます。

価格勝負をすることはオススメしません。なぜなら、価格勝負をするには日本一・世界一安くしないと勝ち目がないからです。価格でお店を選ぶ顧客は、日本で二番目・世界で二番目に安いお店では購入しないでしょう。

同じ商品であっても、バンドル販売(単価の低い商品を複数個まとめて販売し、購入単価を上げる販売方法)や、保証を手厚くするなど付加価値を付けて、安売りに走らずにどうしたら売れるのかを考えましょう。

スーパーで98円で買えるお茶が自販機では160円で販売されていますが、自販機のお茶も売れています。価格差があっても自販機で一定数売れるのは、自販機の方がスーパーで買うより手軽に直ぐに購入できる、という手軽さ(=付加価値)があるから売れるのです。

お茶の例は、販売チャンネルが違うということがポイントなので、ECにそのまま当てはめることはできませんが、「どういった付加価値を付けるか」という点において、考え方は同じです。

「安くすれば売れる」と言う考えはNG!

価格競争を始めると、必ず泥沼にはまります。値下げをする→競合が値下げをする→更に値下げと、どんどん値段を下げざるをえなくなります。一時的に受注と売り上げは増加しますが、粗利率が低いので忙しいのにほとんど利益が残らず、会社全体が疲弊します。

戦略として理由があって価格勝負をする場合は良いのですが、ただ単純に「安くすれば売れる」という考え方は絶対に止めましょう。「Amazon」などの大規模ECモールなどと価格勝負をして、勝算がありますか?

「Amazon」と価格では対抗できなくても、アフターサービスや顧客の悩み・課題に対して親身になって答えるお店なら、充分勝算はあります。

「卒塔婆屋さん」では、バラ売りやお客さま都合でも返品・返金・交換可能といった他社にはない付加価値を全面に出し、価格競争は絶対にしない、顧客に納得していただける適正価格設定を行っています。

また、昨年の11月に全商品を2割ほど値上げしました。だいたい1割くらいは注文数が減っても、従来の売り上げはキープでき、粗利率は上昇し、注文数が減った分、仕入金額・各種経費も抑えられ、最終利益は増えると仮説を立てました。しかし、実際に値上げをしてみたら、注文数は3割増、売り上げは4割増となりました。

③ 流通戦略(Place)

製品戦略・価格戦略を策定したのち、それらの価値をいかにして顧客に届けるか、流通経路や販売する場所を考えます。

今回はECサイトになりますが、例えば実店舗を持っているのであれば、ECサイトで注文し店舗で受け取る、実店舗をショールームとしてECで購入する、などオムニチャネルということも視野に入ってきます。ECサイトであってもインターネット上だけで完結せず、サイトで商品を見て電話やFAXで注文するというパターンなどを柔軟に考えます。

「卒塔婆屋さん」の事例

顧客層が比較的高齢な場合が多いので、ECサイトからの注文にプラスして、従来からの電話やFAXなどの注文方法にも対応する

④ 宣伝戦略(Promotion)

市場ニーズにあった製品、価格戦略、販売する場所・手法まで決めても、それを顧客層に適切に認知してもらう必要があります。ネット広告やSNS、ブログ、メルマガなど、認知してもらう方法を、ターゲティングやポジショニングでの内容を加味して考えます。

「卒塔婆屋さん」の事例

ここまでで、ECサイトの骨組みが大分完成しました。最終段階として、これまで分析した内容をまとめたEC単独の事業計画書を作成します。

3.EC事業計画書を作成する

EC事業計画書は完結かつストーリーラインを持って順序立てて作成します。各項目ごとに「卒塔婆屋さん」の事例を挙げていきます。

背景

マクロ環境分析と業界環境分析から導き出した結果、EC事業を始めるに至るまでの事実を書きます。主観を排除して事実に絞って記載することが重要です。

事例

少子高齢化、人口減少、核家族化、寺院の檀家離れにより、卒塔婆の寺院1件あたりの使用本数が年々減少しており、単価を上げることも限界にきている。そのため、新規顧客を獲得することが最優先事項である。

目的

背景に対してどんな課題があり、課題解決の結果、どうなるべきかを完結に書きます。

事例

EC事業を通じて新規顧客を獲得し、事業全体の底上げをはかる。また、若い世代に向けて卒塔婆供養文化を継承するための情報発信を行う。

顧客層

ターゲティングで設定したペルソナを書きます。

事例

全国の寺社仏閣及び販売店、特に若い住職でITに対しての抵抗感が低い方が対象。

目的達成の手法

マーケティング・ミックスから導き出した具体的戦略と、さらに具体的施策に落とし込んだ戦術を書きます。

製品戦略

製品戦術

価格戦略

価格戦術

流通戦略

流通戦術

広告宣伝戦略

広告宣伝戦術

予算

年間の販売計画を立てます。最終的にECで利益が出ているかどうかを判断する上で重要になってくるため、EC事業単独で予算を立てることをオススメします。下記のような項目が挙げられます。

フロー作成

ECサイト構築までに「誰が」「いつ」「何をするのか」を明確にしておきます。完了した項目は消し込んでいき、責任者は必ず進捗を確認しながら進めて行きます。

◇◇◇

ここまでがECを構築する前の下準備となります。「本当にここまでやったのか?」と声が聞こえて来そうですが、正直にお伝えするとまったくやっていませんでした(笑)。

ECサイトを形にしたくて、いきなりECサイト構築サービスに申し込むところからスタートしました。しかし、いろいろなことを整理するのに2年ほどかかった苦い経験があります。

「急がば回れ」。最初の1か月くらいに下準備をしっかりしていれば、「早く上手く行ったのではないか」と後悔しています。自身の経験や、これから始める方には無駄な回り道をしてもらいたくない思いから、土台構築の部分を解説しました。