06

Mar

ジェームズ・ダイソン、電気自動車とデザインの未来について語る

──開発製品のカテゴリーはどのように決めているんですか。

まあだいたい、自分たちが興味をもっていて、問題点があるものですよね。技術を開発すれば、その問題を解決できる。だから、われわれが差異化を図れるポイントがあるということ、われわれにできることがあり、われわれがやりたいことである、ということ。その点は自分たちでも問いかけながらやっています。ですが、極めてランダムにもなり得ます。以前、いきなりドライヤーをやったようにね。社員の誰ひとりとして市場調査もしないまま、やってしまったんです。

──電気掃除機は、従来の掃除機に対するあなたのいらだちから生まれたそうですが。

そうです。6歳のときから家で掃除機を使っていましたから。父が早く亡くなったので、掃除はわたしの仕事だったんです。当時のものはとにかく気に入りませんでした。その後、自分の家族ができて、家をもつようになってからも、まだ掃除機はあのうるさい音と醜悪なにおいを出していました。それなのに、ゴミをちっとも吸いこんでいないわけですよ。それで思ったんです。わたしはエンジニアなんだから、自分でなんとかすればいいじゃないか、と。

ジェームズ・ダイソン、電気自動車とデザインの未来について語る

デザインに関していえば、「非常に機能が優れているけれど見た目が悪い」というものも人は好きでいられるし、すごく愛着が湧くことすらあるかもしれません。一方、見た目は素晴らしいけれど、機能的にあまり優れていなければ、すぐに嫌気が差すでしょう。つまり、重要なのはこの点です。まず性能が確かなこと。つまり、確かな機能をもっていて、確かな技術があることです。見た目はその次に来るはずです。本当に素晴らしい製品は、機能を優先したところに生まれるんです。

──初の電気掃除機には開発に15年をかけ、5,000を超える試作品をつくったとか。こんなことをしていて、よく正気でいられましたね。

退屈に思えるでしょうが、実際には、とても面白い発見の旅なんですよ。まさに『天路歴程』[編註:ジョン・バニヤン作の寓話で、「天の都」に到達するまでの旅の記録]を現実に味わっているようなものです。うれしいこともつらいこともあり、実際には退屈など少しも感じません。本当ですよ。すごくわくわくします。試作品をひとつつくるたびに、新たな試みをしているわけだし、常に学び続けているのです。面白いことに、成功よりも失敗から学ぶことのほうがずっと多いんですよね。

ほかの会社に勤めたことがないので、よその人たちがどのようなやり方をしているのか見当もつきません。例えば、わが社には本来の意味で技術者といえる人間がいないので、エンジニアは自分たちで試作品をつくり、実証テストをしています。そういうやり方をする理由は、まずは自分の手でものをつくるのが好きだから。そして第2に、失敗の理由が自分でわかるからです。グラフといくつかの試験結果だけだとしたら、失敗も実感として得られないし、どうやって改善すればいいかもわからないままでしょう。それに、ほとんどの場合で言えるのは、不思議なもので、何かを自分でつくると、よりよいつくり方がわかってくるものなんです。

「軽蔑されているもの」に目を向ける

──最近では、工学の分野に対する人々の関心が薄れてきてはいませんか?

おっしゃる通りです。いま英国の大学で機械工学を専攻している学生の6割強が、欧州連合(EU)以外の国から来ている留学生です。大学院で研究している学生となると、9割がEU以外の出身者です。つまり英国という国そのものが、工学系にまるで関心がないんですよ。政治家が高速鉄道や電力供給といった新しいプロジェクトの話をするときに、政策ばかりではなく、技術的な話をしてくれないかとつくづく思います。テクノロジーについてはまるで口にしてくれませんが、実際にはこちらのほうがよっぽど重要なことですよ。