Illness, divorce and extravagance... How I got out of "mortgage hell"
住宅ローン破綻にいたった家庭の事情は複雑で、さまざまな要素が絡んでいるため、お金の問題だけを解決しようとしてもうまくいきません。本記事では住宅ローン破綻にいたった家族を例にあげて、具体的に問題点をピックアップし、解決策を解説していきます。
突然の病魔に襲われ、左半身不随に…そして離婚
≪竹屋さん(50歳・男性)≫
職業:中古車販売会社勤務
年収:350万円
備考:自動車整備士としてバリバリ働いていたが、脳梗塞を患い左半身不随となったため、身体的負担の少ない事務職に配置転換された。慣れない仕事に本人はやる気を失い、収入も低下。
小学4年生の娘は軽度の障害を抱えており、「家族を守りたい」という気持ちは人一倍強かったが、それだけに身体がままならないことにいら立ち、妻に辛く当たることが増えてしまった。
最終的には離婚することとなり、養育費の負担などから経済的に破綻。住宅ローンを支払えなくなり、金融機関から競売を申し立てられたため、相談に訪れた。
≪竹屋さんの元妻(38歳・女性)≫
職業:主婦
備考:社内結婚で竹屋さんと結ばれ、娘をもうけた。病気で収入が減った竹屋さんを支えるためパートに出たが、竹屋さんから投げかけられた「お前は楽でいい」という言葉に嫌気が差し、離婚を決意した。離婚成立後は娘と2人暮らし。竹屋さんからは毎月5万円の養育費を受け取っている。
≪物件とローンの詳細≫
住宅のタイプ:新築一戸建て
購入価額:3500万円
うち住宅ローン:2500万円
ローンの詳細:返済期間35年・金利1.0%(元利均等)
毎月の返済額:7万571円
任意売却時の残債:2300万円
備考:三階建てだが建坪率が地域の規制を超えており、違法建築となっている。
竹屋さん一家が価額3500万円の新築一戸建ての住まいを購入したのは破綻にいたる8年前のことです。頭金1000万円を入れ、住宅ローンを利用して2500万円を借り入れることで購入資金を賄いました。
当時、自動車整備士として会社で高く評価されていた竹屋さんの年収は600万円程度あったため、月額7万円の支払いは特にリスクを感じない余裕のあるものでした。ところがそんな竹屋さんを突然の病魔が襲います。脳梗塞を発症し、左半身不随になってしまったのです。
幸い、リハビリで日常生活に不自由がない程度には回復しましたが、細かな手作業が必要な自動車修理の仕事は以前のようにはできません。そこで竹屋さんが働き続けられるよう、会社側は彼を事務職に配置転換しました。
ところが修理の仕事しか知らない竹屋さんは新しく与えられた業務をうまくこなすことができません。失敗しては自分よりはるかに若い同僚にバカにされるという日々が続く中、だんだん気持ちが荒むようになりました。
配置転換に伴い、収入も大幅に減少しました。月収は22万円程度に落ち込んでしまい、生活費やローンの支払いを賄うため、それまで専業主婦として家で娘の面倒を見てきた奥さんも働かざるを得なくなったのです。
当時の竹屋さんに家族の気持ちを思いやる余裕はなく、会社でのストレスを家で爆発させることが増えていきました。結局、ある日つい発した「お前は楽でいいな」という言葉がきっかけとなり、奥さんから三行半(みくだりはん)を突きつけられて離婚することとなりました。
個人再生を提案してみたが、「任意売却」を希望
竹屋さんがローン返済に行き詰まった原因は離婚にありました。収入が減る中、養育費を支払うのは大きな負担です。さらに子煩悩な竹屋さんは娘に会えない寂しさから、生活を律する気持ちを失い、パチンコや競馬、飲酒などで散財するようになりました。
ただでさえ経済的に厳しいうえに、無駄な出費がかさめば家計は成り立ちません。竹屋さんはカードローンなどを重ね、その返済に追われるようになったのです。その結果、住宅ローンの滞納が続き、金融機関からは競売申立の通知が送付されてきました。
私が相談を受けた当時、竹屋さんは自分がどこからいくら借りているのか、まったく把握できていませんでした。負債額を訊ねた私に「住宅ローン以外の借金は300万円程度」と回答しましたが、調べてみると約500万円の借金を背負っていることが判明したのです。
500万円程度であれば、住宅を売却する必要のない個人再生で100万円ほどに圧縮できます。詳しくは後述しますが、裁判所に申し立てを行えば、債務を1/5に減らすことができるのです。消費者金融などに対する債務が1/5になれば、月額22万円の収入でも7万円の住宅ローンの支払いは難しくありません。
私が相談を受けた時点でも、まだ任意売却を選択しなくてもよい状況でした。保証会社による代位弁済がなされておらず、交渉によっては家を失わずに暮らしていくことが十分に可能だったのです。
ところが竹屋さんの希望は任意売却をしたいというものでした。ローンを支払えなくなったのを機に、住まいを売却して気持ちの面でも区切りをつけたいという思いが強かったのです。
任意売却の目的はあくまで生活再建
私が任意売却を手がけるのは債務の圧縮が目的ではありません。あくまで依頼主の生活再建が真の目的であり、債務の圧縮はその過程に過ぎないのです。竹屋さんの場合には任意売却で家を失う必要はありませんでした。竹屋さんの住まいには建坪率が現在の建築基準法に抵触するという問題があったため、売却してもかなりの安値になってしまい大きな債務が残るので、経済的には不利益の大きい選択だったのです。にもかかわらず竹屋さんが任意売却を希望したのは、生活を立て直すために必要と判断したためでした。
家族で暮らしていた一戸建て住宅に1人で住む竹屋さんの気持ちは後悔と未練にとらわれており、将来を前向きに考えることができなくなっていました。特に娘に対する思いが強く、長女が使っていた二階の部屋は母と娘が出て行ったその日のまま、まったく手つかずの状態でした。掃除もせず、娘が遊びかけていたままオモチャが放置されていたのです。「辛すぎて、二階に上がれないんです」。竹屋さんはそう語りました。
家のあちこちに娘との思い出が残っており、それを消すのが寂しいので、掃除することもできないとのことでした。竹屋さんにとって任意売却は経済的に立ち直るのと同時に、気持ちの面でも踏ん切りをつけ、その後の人生を前向きに生きるために必要なことだったのです。
物件を売りに出してみたところ、1580万円で買い手がつきました。相場価格は1800万円程度だったので、建坪率に違反がある分、差し引かれましたが、妥当な額として金融機関からも承諾を得ることができました。
売却後は次のステップとして、裁判所に自己破産を申請しました。任意売却により返済しきれなかった住宅ローンの残債とクレジットカードの債務について、自己破産することで返済を免除してもらうことができました。
意図したとおり、経済面の問題と気持ちの問題をクリアして、竹屋さんは新たなスタートを切ることができたのです。
生活再建に役立つ「生活準備金」とは?
住み慣れた家を離れて新たに生活を始めるためには、一定の資金が必要です。アパートやマンションを借りるためには敷金・礼金などが要りますし、家財道具を運ぶ引っ越し費用、カーテンなど最低限の生活用品をそろえるためのお金も必要です。
任意売却ではそういった債務者が必要とするお金を「生活準備金」という名目で購入者に用意してもらうことが可能です。交渉次第ですが、売却代金に含めて別途現金で購入者から受け取ることもできなくはありません。ただ、このお金はあくまでも生活費として受け取るものです。
金額は一般に50万〜100万円程度です。預貯金などが債務の返済に充てられる中、手元に現金が入ることには大きな意味があります。任意売却完了後、自己破産する場合もこのお金は徴収されません。生活を再建する資金として使うことが可能です。
生活準備金の有無は、住宅ローン破綻を乗り越えて再度、健全な暮らしを営むことができるかどうかの分かれ目といえます。
借金の額が不明なときは個人信用情報の開示を求める
竹屋さんのように負債がかさみ、あちこちから借金を重ねると、債務者自身も自分がいくら借り、いくら返したのかわからなくなってきます。
任意売却を含め、債務整理では、まず初めに負債額の特定が必要です。自身の負債がわからないときには、個人信用情報を管理している機関に開示を求めることで、把握できます。
本人であればインターネットで確認することもできるので、カードローンなどを複数利用している人は債務を整理するための第一段階として自身の負債を確認してください。私のような任意整理の専門家や弁護士、司法書士などの場合は、委任された代理人という立場で郵送、もしくは窓口を利用して依頼者の負債を確認することができます。
銀行などの金融機関や消費者金融、カードローンなどの利用情報は個人信用情報として網羅されています。ただし個人や闇金業者からの借金については個人信用情報に記載されていないため、注意が必要です。
矢田 倫基
烏丸リアルマネジメント株式会社
代表取締役