アメリカの核施設「ハンフォード・サイト」で連続するプルトニウム被曝事故
2017年12月に入ってすぐ、ワシントン州東部にある核施設群「ハンフォード・サイト」の西端で、ある噂が飛び交い始めた。
このサイトで働くボー・ジェイ(Bo-J)は、昼休みになると、不安げな様子の同僚たちと一緒に、作業着から放射性粒子が検出されたことや、新たに立ち入り禁止になった汚染区域のことを話し合った。
ボー・ジェイ(仕事に支障が出ないよう、昔のニックネームを使っている)はBuzzFeed Newsに対し、「それは噂であって、確かな話じゃなかった」と述べる。「そして、次に話が出たときは、もう作業停止になっていた」
2017年12月13日に、従業員6人が着ていた作業着から放射性物質の「陽性」反応が出ると、労働組合は作業の継続を拒否し、解体作業は中断された。それが、ハンフォード・サイトでも最大規模の汚染事故のはじまりだった。
ハンフォード・サイトは、長崎に投下された原子爆弾用のプルトニウムが製造されていた広大な核関連施設だ。その解体と除染が終わるのは今世紀末だと言われている。
アメリカ政府から作業を委託されている企業、CH2M Hill Plateau Remediation Company(以後、CH2Mヒル)は、労働組合が提示した要求にすぐさま応じ、その後、作業は再開された。ところがその翌日に、立ち入り禁止となっていた解体作業区域の外で、放射性粒子の陽性反応が出た。放射性粒子が封じ込められていないという不吉な兆候だ。
従業員たちは慌てて検査を受けた。ボー・ジェイは、「糞キット(shit kit)」と呼ばれる、生クリーム容器に似た白いプラスチック製のチューブに便を採取すると、東海岸にある検査機関に送って結果が出るのを待った。
言うまでもなく、ボー・ジェイの仕事はつねに危険と隣り合わせだ。被曝を避けるために、白いつなぎの作業着にブーツ、ブーツカバーを身につけ、手袋を何枚か重ね、エアフィルターのあるフード付きフェイスマスクをかぶる。放射線ががんや不妊症を引き起こすことはもちろん、どんなに気をつけていても事故が起きうることは承知していた。
とはいえ今回は、2017年に入ってハンフォード・サイトで起きた3度目の汚染事故だった。2度目は6月に起きた。ボー・ジェイの検査結果は陰性だったが、仲間のうち31人は運が悪かった。
だからボー・ジェイは、サイト内を強風が吹き抜けるたびに、微小な粒子が、自分の肺の中に入り込んでそこにとどまるのではないか、妻と子が待つ家へと走らせる自家用車の周りを舞ったりしているのではないか、と気を揉んだ。
そして、事故が繰り返し起きたのを受けて、ボー・ジェイやその仲間、同州選出の上院議員2人は、CH2Mヒルならびに監督省庁であるエネルギー省は、迫りくる脅威から従業員を守るという義務を怠っていること、一般市民を危険にさらしかねないことを訴えた。
トランプ政権は、現在保有している核兵器の現代化を図り、さらに新たに核開発を推進しようとしている。しかしそうした決断が、長年におよぶ環境への影響を招くことは、ハンフォード・サイトで発生している放射能を巡る危機的状況を見れば明らかだ。
冷戦が終結して以降、アメリカ国内のあちこちにあるかつての核関連施設を解体・除染するために、連邦政府は1000億ドル以上を投入してきた。その結果、数百人の従業員が健康被害を受けた。その数はひょっとしたら数千人に上るかもしれない。
しかし、終わりはまだまだ見えない。エネルギー省の推定によると、ハンフォード・サイトの解体・除染が完了するまでには少なくともあと50年が必要で、さらに1070億ドルがかかるという。